140.配信者、監禁されている? ※一部五味視点
俺は畑にいたはずなのに、いつのまにかベッドの上で寝ていた。
「パパ、メッ!」
「俺は大丈夫だぞ?」
「メッなの!」
あれから数日が経ち、元気になったはずなのに、いまだに外には出させてくれない。
残暑の影響で熱中症になって倒れたのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
それは周囲の様子が普段と違うからだ。
まずドリとポテトに倒れた時の状況を聞いたが、全く何も教えてくれない。
熱中症だったなら、別に言えないことではないはず。
それなのに話を聞こうとすると、そっぽ向いて隠し事をしているような反応をする。
ポテトなんて聞いた瞬間に唸って、俺のお尻を噛んでくるぐらいだ。
しかも、いつもの甘噛みより痛いから、聞いてくるなということだろう。
「おきちゃメッ! わきゃった?」
ドリも必要以上に俺が起きないように言ってくるからな。
「ドリちゃああああああん!」
「ネーネ、シィー!」
部屋を出たドリは、聖奈の部屋に向かったのだろう。
最近は一緒になってコソコソと何かをしているようだ。
「あー、暇だな」
昨日も部屋を出ようとしたら、探索者達が部屋の扉を開けて待ち伏せしていた。
さすが探索者と言うべきか、俺の行動は常に見張られている気がする。
それにトイレや食事に行くのも、後ろからドリが付いてくるからな。
働かずに少しは休めってことだろう。
俺はベッドで横になって、スマホを触りながら何か変わったことがないかニュースを見ていると、あるニュースが目に入った。
――今話題の高級野菜
どうやらそのニュースには、最近話題の高級野菜について書かれていたようだ。
「探索者達が殴り合いになるほどの野菜が発見されたのか……」
今まで発見されていない野菜が様々な業界から注目されているらしい。
新しく品種改良された野菜でも出たのだろうか。
「トマトが一つ万単位か……最近のトマトは高いんだな」
どうやら高級トマトについて書かれているようだ。
俺が育てているトマトも高級トマトの分類になるが、最近はそういうのも多いのかな?
掲載されている写真のトマトは、すごく表面にハリがあり、真っ赤に染まっている。
今にも中から果汁が溢れ出しそうなほど、パンパンに張っている。
「俺も負けてはいられないな」
同じ生産者として、切磋琢磨していかないとね。
直接同じ畑を生業にしている生産者に会ってみるのも良い機会になるかもしれない。
そう思いながら、読み進めていくとどこか違和感を感じた。
「なんかこの畑って見たことがあるよな……」
畑は全面カメラで管理されており、それだけで厳重管理しているのが伝わってくる。
だが、どことなく俺がやっている畑に似ていた。
写真の遠くには建物があるように見えるが、そこも畑から見る我が家に似ている。
「さすがに俺の畑が特集されることなんてないよな」
そもそも生産者のコメントも書いてあったが、コメントした記憶はないからな。
俺はその後もスマホで動画編集の方法を見ながら、時間を過ごした。
♢
とある田舎に仕事で来てから数ヶ月。
最高難易度の新しいダンジョンができ、都市開発が進められるという話で俺は抜擢された。
面倒を見ていた後輩のあることが問題になり、その尻拭いというのもあるだろう。
数々の功績を残した俺が選ばれるのは当たり前だからな。
俺は降格処分とされたが、挽回するチャンスだと思い引き受けることにした。
会社からは企業拡大のために、必ず案件を取ってこいと言われたが、現実は中々うまくいかなかった。
元から住んでいる住民や市長の意向と合わないという理由で、コンペティションで落とされてしまった。
ダンジョンができたのに、大都市までに発展させないとはどういうことだろうか。
そもそも一般市民が無駄に土地を持っていることの方が問題な気がする。
だって変な怪物達が襲ってくるんだぞ?
俺だったらそんな土地に住むなんて考えられないからな。
だから、俺は住民が安全な土地に引っ越せるように様々な手を使った。
それに引っ越せば、都市開発に使える土地の規模が増えるからな。
今までどんな手段を使ってでも勝ち取ってきた俺だからこそ、今回もうまくいくと思っていた。
「あいつらにバレたか……」
だが、そんな矢先に畑の生産者に嫌がらせをしていたことがバレてしまった。
それでも俺は運に見放されることはなかった。
運が良いことに、その生産者は俺の直属の部下のチームで働いていたやつだった。
毎度報告が上がってくるたびに、ミスばかりして後輩の手を紛らわしていたのは知っている。
俺が直接指導したこともあるぐらいだからな。
もう、嫌がらせをしなくてもあいつなら直接俺達の会社に土地を売ってくれるだろう。
あれだけ会社に迷惑をかけていたんだ。
格安で譲ってもおかしくないからな。
考えただけで笑みが溢れてくる。
俺はビールを片手にテレビを見ていると、あるニュースが目に入った。
「畑が国の保護下になる……?」
最近巷では魔力が含まれた野菜が話題になっている。
国の政策によって間接的に保護・支援されることはあった。
だが、今回は畑自体が国の保護下で〝国家特別保護畑〟という制度が決まるかもしれないというニュースだった。
世の中にはすごい畑があると思い、流通会社で働く俺は画面に釘付けになっていた。
「ふーん……。畑自体は普通の……ぶっふ!? おい、ここってあいつの畑じゃないか!」
テレビに映し出された畑を見て、俺は飲んでいたビールを吹き出してしまった。
あれだけ何日も畑に行っていたら、嫌でも気づいてしまう。
カメラが何台も置いてあり、見つからないように死角を移動していたからな。
このニュースが本当であれば、今までやっていた俺の行動は犯罪行為になるかもしれない。
そもそも俺が犯人だってバレている可能性がある。
確かあの時は……俺が犯人だと怪しまれていたが何も言っていないはず。
それなら捕まる心配はないな。
それにあの畑が本当に魔力を含んだ野菜かどうかもわからないからな。
除草剤を撒いたじゃがいも畑や出荷できなくなったさつまいもは、その辺のやつと見た目は変わらない。
「ん? 見た目が変わらないなら、元の状態に戻しても変わらないよな」
俺はあることを思いついて、すぐに知っている生産者に電話をかける。
「いつもお世話になっております。笹島ホールディングス株式会社の五味です」
「ああ、五味さんお久しぶりです。何かありましたか?」
「今ちょうどさつまいもの収穫時季だよな? できれば土付きで掘ったばかりのさつまいもをたくさん入荷っていけそうか?」
「大丈夫ですよ」
「おお、それは助かった。なるべく品質の良いものを頼むよ」
「すぐに準備して送りますね」
俺は電話を切ると一気にビールを流し込む。
これで俺も犯罪者にはならないだろう。
だって、さつまいもは元々被害に遭っていなかったからな。
この度第二巻の発売日が決定しました!
発売日は10月10日になっております。
公式サイトではお得なSSペーパーが付いてくるため、そちらで予約してくださると嬉しいです。
詳しい情報は活動報告と書籍情報に載せてあります!
「ほんきゃってね! きゃわないこは……」
『カミツクゾ!』
ポテトがあなたのお尻を狙っているかもしれないですよ?