13.配信者、生配信で謝罪する
「おはようございます」
「あっ、直樹さん朝からすみません!」
突然の電話で目を覚ました。どうやら声の主は、探索者ギルドの受付嬢のようだ。
こんなに朝早くから仕事をしているとは、探索者ギルドはブラック企業なんだろうか。
俺もついこの間までは朝まで働くこともあったからな……。
「何かあったんですか?」
「依頼が達成されたので、そのお電話をさせて頂きました」
どうやら昨日依頼したばかりなのに、すぐに完了したらしい。それにしてもメールで連絡すると言っていたはずだが、何かが起きたのだろうか。
「あのー、その件で問題が起きまして……」
「問題ですか?」
「はい。たくさんの探索者が一気に魔石を持ってきて、AランクやBランクといったCランク以上の魔石が次々と集まっているんです」
「お金は払えないのでCランクの物で大丈夫ですよ」
俺は話を聞いて飛び起きた。流石に100万以上するランクの魔石を購入することはできない。
そもそもそんなに貯金を魔石に使うことができないのだ。
「それが……お金はいらない。花束か直輝さんとお茶をできれば良いという声が多く上がっているんです」
「はぁん!?」
電話越しに聞こえてくる言葉に耳を疑ってしまった。大金にもなる魔石を花束か俺とお茶をするだけで良いという話が聞こえてきたのだ。
花束には少し価値はあるが、俺にそんな価値はないはずだ。
「なので一応電話をしておこうと思ったんですが、早朝からすみません」
「ちょっと確認してもいいですか?」
ひょっとしたらと思い動画配信サイトを開くことにした。そこでは異常な光景を目にする。
「えっ……再生回数が10万を超えている!? コメントも……なんじゃこりゃ!」
コメントは前より何十倍も増えていた。少なからず動画が何かのタイミングで注目を浴びたことになる。
再生回数10万って有名なダンジョン探索の配信者がそれに当たる。
「今すぐに花束を持っていくので、依頼をストップしてください」
「わかりました!」
俺は電話を切ると、大きくため息を吐く。朝から受付嬢の電話で疲れてしまった。
「パパ?」
そんな俺をドリは心配しているようだ。お小遣い程度で稼ぐために動画配信を始めたが、平和な日常が少し脅かされるような気がした。
動画配信がこんなことになるとは思いもしなかった。
とりあえず朝食を食べるために居間に行くと、すでに祖父母が待っていた。
「朝から騒がしいな。今日は収穫の日だろ? そんなに楽しみにしていたのか?」
そういえば、今日は祖父とトマトとレタスの収穫をする予定だった。
「いや、昨日行ったところで問題が起きたらしいからそこにまた行かないといけないんだ」
「そうか。なら収穫はやって――」
「いやいや、じいちゃん一人に任せられないよ。それをやってから探索者ギルドに向かうよ」
「探索者ギルド?」
祖父は探索者ギルドという言葉に何か反応を示した。今までギルドの話をすることがなかったからな。
ひょっとしたら母が探索者になった時の記憶が残っているのだろうか。
少し避けていた部分にもなるため、いつか話してみるのも良いのかもしれない。
俺達は急いで朝食を食べ終わると、野菜の収穫に向かった。
♢
早速スマホを準備をして、収穫するところを生配信していく。
「皆さん、おはようございます」
今日は生配信したタイミングでたくさんの人が動画を視聴していた。どんどんと"おはようございます"とコメントが入ってくる。
いくらなんでもまだ仕事に行く出勤前なのに、見ている人が多すぎる。
「ひょっとして皆さん探索者なんですか?」
見たこともない名前がコメントに次々と流れていく。そのほとんどが探索者のようだ。
「皆さんにお願いがあります。先程探索者ギルドから依頼について連絡が来ました。今回そのことについて少しお話しさせて頂きます」
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名無しの凡人 最近
何かあったんですか?
▶︎返信する
孤高の侍 最近
拙者の魔石では足りませんでしたか?
▶︎返信する
貴腐人様 最近
私はBランクの魔石を10個ほど納品しておいたわ
▶︎返信する
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「高位ランクの魔石をお支払いするお金が俺にはありません。それできっと何か代わりになるものってことで色々提案されたのだと感じました」
次々とコメントに希望する提案が書かれていく。
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犬も歩けば電信柱に当たる 最近
金なら気にするな!
▶︎返信する
幼女を見守る人 最近
お金ならいらないぞ!
欲しいのはドリちゃんの花束だ!
▶︎返信する
パパを見守る人 最近
私はパパさんの作ったお野菜が食べてみたいです
▶︎返信する
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花束、野菜が欲しいならわかるが、ドリとのチェキ会や俺とのデートなどわけのわからないものも混ざっている。
実際に花束はドリの提案で気持ち程度にしか考えていなかった。
「俺自身が田舎出身で、お茶やデートとかもしたことがないので、楽しませることができないんです」
だから花束や俺とお茶をしたいと言われても困ってしまう。
できるのは一緒に畑を耕すことぐらいだ。それなら一緒にいつでもできる。
「なのでできる限り依頼を受けて頂いた方には、花を送りますので今回はギルドに魔石を卸してください。ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
それだけを伝えると、俺は祖父とドリが待つ畑に向かった。
一方、視聴者側では俺の発言に一部のファンが暴走していた。
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オホモダチ 最近
あんなにイケメンなのにデートしたことないって!?
▶︎返信する
未婚の母 最近
これは優良物件じゃん!
▶︎返信する
パパを見守る人 最近
ここは私達の出番ですね!
▶︎返信する
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デートをしたことがないという発言に対して、コメントがどんどんと流れていく。
俺の見ていないところで、視聴者同士のバトルが始まっていたらしい。
その時のことはコメントが多すぎて、俺も後日コメントを見るのを諦めていた。
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