138.聖女、魔力が暴走する
私達はすぐにパパさんを家の中に運んでいく。
「ドリちゃん何があったの?」
「パパがたおれたの」
ドリちゃんは心配そうにパパさんの頭を撫でていた。
パパさんが苦痛な表情をしているのは、私達でもすぐに気づいた。
ただ、息をしているところをみると、命に関わるような状態ではないようだ。
「すぐに配信を切ってくるわね」
「俺達はあいつを呼んでくる」
貴腐人はミーティング終了のお知らせ、凡人達は鎌田クリニックに向かった。
きっとこれが春樹さんの言っていたトラウマによる発作なんだろう。
ただ、今まで畑作業をしていて、発作が起きるようなことはなかった。
それにドリちゃんはパパ専用で回復魔法のようなものを使えていたはず。
一度ドリちゃんが誘拐された時に、間近で見ていた私が一番それを知っている。
むしろドリちゃんのことで知らないことはないからね。
それなのに発作には効果がなかったのだろうか。
しばらくすると、オホモダチや春樹さん達がやってきた。
「おい、直樹に何かあったのか?」
居間で横になっているパパさんを見て、春樹さんはどこか不安そうな顔をしていた。
「発作が起きたのかしらね。意識を失っただけだから問題ないわよ」
「ああ」
精神科医であるオホモダチが大丈夫って言うなら問題ないのだろう。
ただ、ドリちゃんやポテトをはじめ、パパさんと仲良くしている子達から魔力が溢れ出している。
「ポテトよ、何があったんだ?」
お祖父さんがポテトに尋ねると、耳元で何かを話していた。
私の研ぎ澄まされた聴覚では、片言でポテトが話しているように聞こえてくるが気のせいだろうか。
あの子ってミツメウルフだよね?
「おじさんが直樹をいじめたって言っているぞ?」
その言葉を聞いて、私は急いでスマホを取り出す。
「この中でパパさんをいじめた人はいるかしら?」
侍が解析した画像をドリちゃん達に見せる。
一枚ずつ画像をスライドすると、ある一枚の画像でドリちゃん達の反応が変わった。
『グルルルルル!』
「ゆるしゃない!」
ポテトはその場で唸り、ドリちゃんの魔力でベランダから見える庭の木が激しく揺れている。
「一回魔力を落ち着かせるでござる」
「しっかり息を吐いた方がいいぞ」
「音を立てて吸って、ふーっと息を吐くと良いって聞きました!」
まずはドリちゃん達を落ち着かせる。
このままだと魔力に支配されてしまう。
肌はだんだんと緑色に変化して、棘も生えてきた。
前にパパさんから相談はされていたが、改めてドリちゃんがドリアードだと再認識した。
ポテトも毛が逆立ち、珍しく怒っている。
「ほら、ヒッ・ヒッ・フー!」
私が率先して呼吸法を教えていく。
「ヒッ・ヒッ・フー!」
『ヒッ・ヒッ・フー!』
みんなで息を整えていくと、魔力は少しずつ落ち着いてきた。
「あなた……それはラマーズ法よ」
「へっ?」
「いやねー、いつから妊婦になったのよ」
どうやら私はドリちゃんに変なことを教えてしまったようだ。
あれだけ変なことを教えないように注意してきたのに……。
「ネーネ?」
そんな私とは裏腹にドリちゃんは私の顔を覗き込んだ。
「ニパッ!」
頬を指で押さえて可愛い笑みを私に見せてくれた。
こういう時こそ笑顔になろうって言ってくれているのだろうか。
結果として魔力が落ち着いていたから、問題はない。
ここにいるドリちゃんを含む魔物達は、魔力を巧みにコントロールしているからね。
「もう大丈夫のようね」
ドリちゃんもいつもの可愛い女神様に戻っていた。
「あっ、怒ったドリちゃんの写真を撮っておけばよかった……」
私はなんて過ちを犯してしまったのだろう。
肥料達の代表として失格だわ。
どんな推しの姿も残しておくべきだった。
「あなたも相変わらずね」
そんな私を見て貴腐人は笑っていた。
「ちょっと直樹を部屋に運んでくるわ」
みんなが落ち着いたのを確認して、春樹さんは立ち上がった、
居間に寝かしておくのも邪魔になると思ったのか、パパさんを抱きかかえた。
「ギュフフフフ!」
隣にいる貴腐人からはいつものように奈落の底から悪魔のような声が漏れ出ていた。
前から変わらないのは貴腐人も同じだ。
「それでこの人達を皆さんは知っているのかしら?」
「わしもばあさんも知らないぞ? なぁ?」
「おじいさんなら忘れている可能性もあるけど、私も知らないなら無関係の人かしら?」
「ばあさん……ひどいぞ?」
「何か言ったかしら?」
ポテトはお祖父さんの頭を優しく撫でていた。
「今さっきわかったことなんですが、写真の人はパパさんが都会で働いていたときの上司なんです」
「前にドリを誘拐した人か?」
「その人とは別の人になりますね」
お祖父さんとお祖母さんには、畑を荒らした犯人を伝えていない。
それにまだ確証はできていないからね。
「はたけないないした」
一方、ドリちゃんはお祖父さんに必死に何かを伝えようとしていた。
今わかっている範囲の情報は、しっかり共有した方が良さそうだ。
「実は畑を荒らした時の映像に小さく映っていたのがこの方なんです」
「なら犯人はこの人なのか?」
「そこまでの確証は……」
「うん!」
ドリちゃんの大きな返事が家の中に響く。
部屋中にいる人達がドリちゃんに視線を向けた。
「このひとがやったっていってた!」
やっぱりこいつが犯人か……。
いくら一般人だからって、推しの畑を荒らす人間を私が許すわけがない。
「今すぐ抹殺!」
私はその場で盾を取り出して、ベランダに向かった。
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