137.配信者、あいつに会う ※一部聖奈視点
俺達もポテトを追いかけていく。
『ガルルルル!』
倉庫の中で唸っているポテトの声が聞こえた。
「そんなに急いでどうし――」
「おい、あっちいけ!」
ポテトはそのまま飛びついて、逃げないように服を噛んでいる。
あいつ俺の尻は噛むのに、他の人には一切噛まないからな……。
「飼い主なら飼育ぐらいしっかり……」
いや、今はそれどころではなかった。
「ははは、ご主人様がポンコツだと犬もバカになるのか」
俺は何か幻覚でも見ているのだろうか。
なぜあいつがいるんだ。
朝に市長から話を聞いて思い出したのが原因か?
「パパ?」
「大丈夫だよ?」
俺はニコリと笑いかける。
だが、ドリは今にも泣きそうな顔で俺を心配していた。
「おい、犬をどうにかしろ!」
ポテトはやつの服を噛んで俺の方を見ていた。
どこか尻尾をブンブンと振っているのは、獲物を捕まえたのを褒めて欲しいのだろうか。
いや、あいつのことだから捕まえたのが嬉しくて、体に出ている気がする。
「ポテト、五味さんを離してあげて」
『ガウ!?』
ポテトは戸惑いながらも、噛んでいた五味の服を離した。
倉庫にいたのは前の職場の本社にいた五味だった。
なぜ五味が我が家の倉庫にいるのだろうか。
ただ、それだけを疑問に思っている。
「昨日も倉庫に来ていましたか?」
犯人だと決めつけるのはいけないと思っている。
ただ、倉庫を荒らされたばかりなのもあり、どうしても五味が犯人だと思ってしまう。
「俺を疑っているのか? お前みたいなポンコツとは一緒にするなよ」
『ガルルルル!』
いつもは鼻で笑うポテトが珍しく怒っている。
ただ、五味の手元は土で汚れていた。
今まで何もやっていなかったとしても、今回は関係ないとは言えないだろう。
「そもそもお前のせいで俺がこんな目に遭っているんだぞ」
「俺のせい……?」
「そうだ。お前らがいなければ俺は降格なんてせずに済んだんだ」
突然、胸の奥深くで小さな警鐘が鳴り始める。
その音は次第に大きく、鋭くなり、頭の中で響き渡る。
『お前のせいだ。お前のせいで帰って来なくなったんだ』
鼓動が早まり、息が詰まるような感覚に襲われる。
周りの景色がぼやけ、音が遠のいていく。
「パパ!」
誰かが俺の手を必死に掴んでいるが、俺の意識は遠のいていく。
「市長はお前達を優先しているからな。お前みたいな使えないやつを優先させるなんてバカの集まりだな!」
必死にもがいてもどんどんと闇が俺を支配していく。
「やめてくれ……。僕が悪いんだ。全て僕のせいなんだ」
「おい、やっぱりこいつおかしいぞ!」
誰かが走ってどこかへ行こうとしている。
俺はまた置いていかれてるのだろうか。
必死に手を伸ばすと、手にムニッとした感触を感じた。
『オイ、ダイジョーブカ!?』
「パパが……」
『イマスグタスケヲヨブカラナ!』
「パパー!」
『ワォーン!』
体の隅々まで冷たい汗がにじみ出し、手足が震える。
心の中で警鐘が鳴り止むことなく、全身を闇が支配していく。
『お前のせいでパパとママは死んだんだ!』
何度も誰かが俺に声をかけてくる。
「嫌だ……。やめてくれえええええええ!」
俺は完全に真っ暗な闇に支配された。
♢
「皆さんおはようございます!」
私がスマホの前で挨拶をすると、画面に映る肥料達が各々手を振っている。
ここ最近行われている緊急ミーティングはこれで何回目になっただろうか。
ファンミーティング自体は今まで隠れてやっていた。
畑作業中や台所に立っているありのままの姿を肥料達は求めているからね。
一部盗撮と言われているが、ある程度説明済みだから問題ない。
むしろパパさんは気づいていない気がする。
「今回はここ最近畑を荒らしている人について話そうと思う」
「最近の話題はそれしかないわね」
「結構被害が出てますもんね」
貴腐人や桜と話していても、最近の話題はそればかり。
「探索者である私達が捕まえられないのは申し訳ないです」
探索者である私達は画面越しに頭を下げる。
私達は魔物がダンジョンから溢れ出ないように、間引きするように依頼……いや、本来この家を守るのが私達の依頼だ。
そんな私達探索者が依頼を失敗ばかりしているってだけで信用問題に関わってくる。
パパさんは優しいから何も言ってこないだけで、その優しさに甘えていたらいけない。
「パノラマカメラにも映らないですからね」
他の肥料達がフォローしてくれるが、肥料兼探索者の代表としているのが申し訳なく感じる。
「見つけたらすぐに腐沼に埋めるわ」
「それだけじゃ足りないです。社会的に抹殺しないと……」
私達の目をかい潜り、カメラの死角を狙った犯罪行為に私達だけではなく、肥料達の怒りも頂点に達している。
「こういうのって犯罪なんだよね?」
画面に映る百合ちゃんですら、行為自体が犯罪だと理解している。
犯人が誰なのかはまだわかってはいない。
ただ、イノシシからの証言を考慮すると、人間なのは間違いない。
イノシシを信じるのかと言われたら、なんとも言えない。
それでもここに住めば、イノシシすら住人のように思ってしまう。
さすがにマツタケが泣き叫んだ時は私も驚いたが、マンドラゴラに似たような存在もいるからね。
「まずはじめに除草剤を撒いたことで器物損壊罪や威力業務妨害罪になると思います」
肥料の中には様々な仕事をしている人達がいる。
その中には法律や国に関わる人がいたはずだ。
畑は個人で所有しているものになり、それに対して損壊させる、および畑作業が妨害された。
「それに倉庫も荒らしているから業務妨害罪になりますね」
もし本当に犯人が人間なら犯罪行為になるし、現場の証拠があればすぐに捕まえることができるだろう。
ただ、命があったらの話だけどね。
そして一番の問題はパパさんが作る野菜が国にとっての利益になるということだ。
「国家資源汚染罪とかにはなりませんか?」
「それも当てはまる可能性があります」
――国家資源汚染罪
それはダンジョンにいる高位の魔物から出てくる純度高い魔石が有用だと、認知されてからできた法律だ。
魔物から出てくる魔石は今じゃ大事な資源となっている。
その中でもAランク以上の魔石が国家資源に当たる。
一つの魔石で国の資源を数ヶ月は賄えると言われているからね。
そして、パパさん達は気づいていないかもしれないが、ここで作った魔力がある野菜は第二の国家資源になるのではないかと噂されている。
魔物を倒せる唯一の存在である探索者の魔力を回復させたり、増やすことができる野菜だ。
それを使えば資源の確保ができる。ほぼ資源と同じような認識になるはず。
それに最近じゃすぐに腐らないことが評価されている。
食料が長いこと確保できるって普通は考えられない。
貧困地域や国の食料問題の解決や非常食にもなる。
「それで拙者がひっそりと犯人が映った動画を解析したが、この中で知っている顔はいるでござるか?」
画面には5人の顔が表示された。
なんでも解析するにはうまく撮影ができていないため、想定される顔が出ているらしい。
「この顔をどこかで見たことあるわね……」
「私もなんとなく記憶に残っているのよ」
その中で貴腐人とオホモダチがある人物に見覚えがあると言っていた。
「どこで見たの!」
今は二人の記憶だけが頼りだ。
「んー、畑だったかしら?」
「ここに来てから見るようになったのは確かよね」
ただ、二人とも記憶が曖昧で全く出てこないらしい。
「ん? 百合と桜は何をやってるんだ?」
そんな中、百合ちゃん達の画面に春樹さんが映り込んだ。
「畑を荒らした犯人の顔なんだって」
「ほぉー、こいつら……なんでこいつがいるんだ?」
いつも優しい春樹さんの顔が一瞬にして変わった。
今まで見たことない表情に百合ちゃんや桜さんも驚いている。
「ふふふ、怒る姿も良いわね」
貴腐人だけはまたカップリングの妄想をしているのだろう。
「ハルキは知ってるの?」
春樹さんは椅子を出して二人の間に座った。
ちゃっかり百合ちゃんと座りたいのだろう。
「ああ、こいつは直樹の元職場の上司だぞ。説明会の時に直樹が倒れた原因を作ったやつだ」
説明会ってパパさんが帰ってくるまで、ドリちゃんは泣き止まなくて困っていた。
パパさんが帰ってきたら元に戻ったけど、あれからしばらくはパパさんも、どこか元気がなかったのを覚えている。
「直樹にだけは直接会わせなくないな」
「その前にみんなで捕まえましょう!」
肥料達が一致団結してミーティングを終えようとしたら、玄関から声が聞こえてきた。
あの声はドリちゃんしかいない。
ただ、声に元気がないのが気になる。
「ちょっと見てきますね」
私が部屋を出ると、心配になったのか貴腐人達も顔を出していた。
「何か嫌な予感がするわ」
「俺もだ」
「拙者も同じでござる」
私達探索者には第六感があると言われている。
人それぞれ違うが、共通するのは人より感覚が鋭いということだ。
すぐに階段を降りると、不安そうな顔をしているドリちゃん達がいた。
「何があったの!?」
「パパが……」
そこには泥だらけになって倒れているパパさんの姿があった。
少し長めになってすみません!
次回からしばらく直樹おやすみします笑
探索者とドリちゃん達の戦いをお楽しみに٩(๑❛ᴗ❛๑)۶
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