136.配信者、みんなで畑に行く
温床も無事に完成し、伏せ込みも終わった俺達は今日も畑に行く準備をしていた。
「準備できた?」
「うん!」
『クウェ!』
『ウン!』
『バウ!』
『ニョーン!』
『フン!』
玄関で靴を履き、振り返ったらあまりにも勢揃いで驚いた。
いつもは俺とドリを中心にカラアゲやポテトがいる。
今日はそこにポテトの子ども達も、一緒に畑に行くようだ。
それに子犬の鳴き声もポテトと同じで、どこか変わっている。
キタヒメなんてそれが鳴き声なのかと思うほどだ。
相変わらず体もビヨーンって伸びているしな。
「今日じいちゃんは?」
「先生のところに行くって先に家を出たよ」
祖父は朝から鎌田クリニックに行っているらしい。
ポテトはいつも祖父と出かけることが多いけど、いないときは俺と一緒に畑に行く。
我が家では野犬と勘違いされないように、誰かと一緒に行くルールにしている。
いや、ポテトは野犬じゃなくて野魔物になるか。
「チップスも頑張りすぎないようにね」
『ウェ!?』
「私が見ているから大丈夫よ」
チップスは子どもが生まれてからは、祖母と過ごすことが増えた。
寝てばかりだった影響か、今はとにかく動きたくて家事を手伝っているらしい。
この間は廊下の雑巾掛けをしていた。
本当に犬なのかと疑問に思ってしまう。
「直樹も気をつけてね」
「ありがとう」
俺が玄関の扉を開けると、待っているやつがもう一匹いた。
『オウ!』
ポテトは元気よく手を上げて挨拶をしていた。
「おー、イノシシも畑に行くのか?」
そこには牙を抜いたイノシシが正座して待っていた。
そんなイノシシの肩をポテトは叩いている。
イノシシは牙を持って、立ち上がるとポテトと庭を駆け回っている。
度々我が家に訪れるようになったイノシシは、ポテトと仲良くしているようだ。
「今日もポテトと見回りか?」
俺の言葉に反応してペコペコと頷いている。
どうやらポテトとイノシシは一緒に畑の見回りをする予定らしい。
「そういえばイノシシも立って歩けるのか?」
『ハァ!?』
ポテトはイノシシの肩を叩いて、すぐにその場に座らせようとしていた。
そんなポテトに対抗するように、イノシシも踏ん張っている。
もうポテトみたいに歩けることに、俺は気づいているからな。
「パパ?」
「ん?」
「まえからだよ?」
どうやらイノシシは前から立ち上がって走っていたらしい。
我が家にいる動物達って、シャンシャンもだけどみんな二足立ちしている。
今頃イノシシが普通に歩いていても気にはならない。
「そういうのは気にしない方が良いのよ。イノシシにもイノシシなりの理由があるのよ」
祖母に言われたら、だんだんそう思ってしまう。
俺は特に気にすることもなく畑に向かった。
「だーれかさんが、だーれかさんが、だーれかさんが、みーつけた」
「だれがみちゅけたの?」
「ちーさいあき、ちーさいあき、ちーさいあき、みーつけた」
「あきちゃ……ん?」
畑で仕事をしながら、せっかくだからと秋の童話を口ずさむ。
「うぉ!?」
ドリは俺の服を強く引っ張った。
その場に座らされると、俺の顔をジーッと見て詰め寄ってくる。
「パパうわき?」
なぜか俺はドリに浮気を疑われていた。
いつもは舌足らずなのに、こういう時ほど言葉が聞き取りやすい。
『ウワー』
『クゥエー』
『バッウ……』
『ビョーン?』
『オラヨリモテテル……』
「いやいや、俺は浮気していないからな!」
浮気をしているつもりもないのに、近くで遊んでいたポテト達にも若干引かれている気がする。
すぐに否定するが、ジッととした目でみんなは俺を見つめていた。
「それよりもメークインが話さなかったか?」
「パパ……あきちゃんだれ?」
話を変えようとしたが、どうやらドリには通じなかったようだ。
女の子っておませだもんね。
「俺にはドリしかいないぞ? むしろ浮気する前に相手がいないわ……」
まず浮気をする前に相手が俺にはいないからな。
春樹と桜を見ていると、俺もそろそろ結婚を意識しないといけない年齢になったんだと、改めて認識させられる。
そんな俺の背中をポテトが叩いていた。
慰めてくれているのだろうか。
俺って全然モテないからな……。
「ドリとけっこんだよ?」
「ドリと結婚?」
「うん!」
どうやらドリは俺と結婚したいようだ。
俺って幸せ者だなー。
そう思いながら俺はドリに抱きついていると、突然ポテトが周囲を警戒し始めた。
「なにかあったのか?」
『アイツカ!』
ポテトは子ども達と遊ぶのをやめてどこかに駆け出していく。
それを追いかけるイノシシ。
行き先は倉庫があるところのようだ。
『バウ!』
『ビョーン』
『エッ……ホウチイヌ? ステイヌデスカ?』
子犬達は突然父のポテトがいなくなりあたふたとしている。
『クゥエ!』
そんな子犬をカラアゲが慰めていた。
頼れる仲間だね。
ただ、俺もポテトが気になっていた。
あんなに警戒を強める時って、ここ最近あった畑や倉庫を荒らしているやつが現れた時ぐらいだ。
「カラアゲはみんなと家に帰ってもらってもいいか?」
『クゥエ!』
子犬達に何かあったらいけないと思い、カラアゲにお願いして、家に連れて帰ってもらうことにした。
「ドリはどうする?」
「いく!」
「パパから離れないようにな」
「うん!」
俺はドリをそのまま抱きかかえて、ポテト達を追いかけた。
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のびのびー٩(๑❛ᴗ❛๑)۶