132.配信者、初めて触れる
『オレハマツタケダヨォ! ヨォヨォマツタケダヨォ!』
この状況をどうすれば良いのだろうか。
さっきまでマツタケの泣き声を聞いていたから、耳がおかしくなったか?
でも、泣くマツタケがいるなら歌うのも珍しくはない気がする。
『ヨォヨォオレヲムシカヨォ! オマエハヨォムシカヨォ!』
なんだろう……。
マツタケってどいつもこいつも、人をイライラさせる才能を持っているのだろうか。
「シャンシャンちょっと良いか?」
庭でポテト達の犬小屋を作っていたシャンシャンに声をかけた。
ポテトとは違ってめんどくさそうな顔をしないから良いやつだとはわかっている。
ただ、普通に見た目がクマだから俺は少しビビってしまう。
「ああ、俺が呼んだのにすまないな」
少しだけ耳が垂れ下がって落ち込んでいる姿を見たら、つい申し訳なく感じてしまう。
ちょうど近くにいたのがシャンシャンだったからな。
だいぶ見慣れたと言ってもクマはクマだ。
普通に考えたら、あのクマが木材を運んで建築作業の手伝いをしているからね。
『オレハマツタケダヨォ! ヨォヨォマツタケダヨォ!』
「このマツタケの声って聞こえるか?」
念の為に声が聞こえるかシャンシャンに確認することにしたのだ。
『ヨォヨォマツタケダヨォ! オレハ……クマアアアアァァァ!?』
どうやらマツタケにとってクマは天敵らしい。
確かにクマって雑食だから、小動物以外にも植物や果実も食べる。
マツタケを食べていてもおかしくないからな。
シャンシャンはマツタケをジーッと見つめると、そのまま手でマツタケ叩いた。
やっぱりマツタケを黙らせる方法は自然界でも同じのようだ。
それにシャンシャンもマツタケが歌っているのが聞こえていたんだね。
「あっ……ありがとう」
俺はシャンシャンにお礼を伝えると、頭を突き出してきた。
んっ?
これはどういうことだ?
「パパ! シャンシャンなでなで!」
どうやらお礼に撫でろってことだろうか。
ドリに言われた通りにシャンシャンの頭を撫でてみる。
ゆっくり触れると、どこか外側の毛は硬いが、内側はもふもふとしていた。
シャンシャンも満足したのか、再び木材を運び凡人と一緒に犬小屋を作っていた。
やっぱり我が家にいるクマも変わり者だな。
「思ったよりも可愛いね」
「パパ、ドリも!」
振り返るとドリは俺に向かって飛び込んできた。
「ぐはっ!?」
勢いよく頭を向けて飛び込んできたら、それはもうただの頭突きだ。
ドリって容赦ないからこういう時は痛いんだよな。
久しぶりにドリドリドリルをやられても、俺は必死に耐えながらドリの頭を撫でる。
これが父親ってやつだろう。
「そういえばマツタケにのびのびして――」
「はぁ!?」
ドリは俺の言葉を聞くと急に距離を取り、家の中に逃げていく。
別にのびのびするのが悪いことではない。
ただ、時と場合があるからな。
それは今回のマツタケの時に思った。
これ以上変な野菜が増えたら、俺では管理できなくなる気がする。
そのうちトマトが話すようになったらどうしようか。
畑中がうるさくて夜に寝ることすらできなくなりそうだ。
「直樹手伝ってくれー!」
「はーい!」
俺は春樹に呼ばれて台所に向かった。
「今日はすごい豪華ですね」
「こんなにマツタケ料理を豊富に使った家庭料理って初めて見るわよね?」
「そもそも俺はあまり食べたことないからな」
「拙者もでござる」
探索者の人達は目を輝かせてマツタケ料理を見ていた。
いや、探索者だけではないだろう。
俺達は昔から食べ慣れているけど、ドリや百合といった子ども達やポテトやカラアゲも興味津々で見ている。
「マツタケの炊き込みご飯と土瓶蒸しは頑張っちゃったわ」
祖母はドリと百合に食べたいと言われた料理を頑張ったと言っていたが、他の料理のクオリティも中々すごい。
マツタケの天ぷらに茶碗蒸し。
マツタケステーキやマツタケと野菜の煮物など、テーブル一杯に料理が並べられている。
大人である探索者達が驚くのも仕方ない。
「おなかしゅいた」
ドリはお腹が空いたのだろう。
おやつにポテトチップスを食べたけど、足りなかったのかな、
早く食べたいのかソワソワとしている。
「もう食べましょうかね」
みんなで座って手を合わせる。
「いただきます!」
「いただきます!」
「いたっきましゅ!」
『ワン!』
今日も朝から走ったり、マツタケが突然泣き叫んだり、倉庫が荒らされたりと色々あった。
「んー、おいちー!」
ドリも初めて食べるマツタケを美味しそうにパクパクと食べている。
そんな大変な一日だったけど、マツタケの香りと秋の味覚に、俺達は癒されて疲れもどこかに吹き飛ぶような気がした。
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