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130.配信者、山を降りていく

 俺達はげっそりした顔で山を降りていく。


 ああ、カゴにはマツタケがたっぷりと入っている。


 ここまで集めるのに死闘をしていたからな。


 泣き叫ぶやつに怒っては叩いて……。


 あまり慣れないことをすると、どっと疲れを感じる。


 まるで社畜時代を思い出してしまう。


 俺は泣いてないけど、扱いとしてはマツタケと同じだ。


 マツタケお疲れ様……。


「それにしても流れ作業が一番楽だったな」


「ドリがマツタケ狩りのプロかと思うほど速かったもんな」


 ドリにマツタケを収穫してもらい、俺や春樹、百合が三人でマツタケに怒っては叩いていた。


 作業を分担したこともあり、たくさん収穫できた。


 側から見たらマツタケに怒って、叩いている危ない集団にしか見えなかっただろうね。


 それにその作業を子どもに手伝わせている。


 配信していたら今頃は炎上していただろう。


 世の中ネット界隈には攻撃的な人が多いと聞いている。


 炎上している配信者はそこら中にいるからな。


 今まで何も炎上しなかっただけマシだ。


「パパ、まったけごはんたべりゅ?」


「マツタケご飯いいなー! あとは何が良いかな?」


「やっぱりここから炭火焼きも外せないよな」


「あー、いいね!」


 今日の晩御飯のことを考えると、自然に足取りは軽くなる。


 久しぶりに食べるマツタケはどれだけ美味しいのかな。


 美味しい……のかな?


 あの泣き叫ぶやつらが美味しいのかと少し疑問だ。


「百合は土瓶蒸しが食べてみたい!」


「またまた渋いものをチョイスしたね」


「土瓶ってありそうか?」


「ばあちゃんなら土瓶くらい持ってそうだけどね」


 うちの祖母はスーパーばあちゃんだからな。


 土瓶ぐらいあるわよってたくさん持ってきそうな気がする。


 むしろ土瓶も昔作っていたわよって言ってきそうだ。


「どびん?」


 ドリは土瓶を見たことがないからわからないのだろう。


「ああ、お湯を沸かすやつかな?」


「やきゃん? きゅうしゅ?」


「あー、やかんと急須に似ているかもね。土瓶蒸しはそこに具材とお出汁を入れた蒸し料理だね」


「むし!?」


 きっとドリの中ではカブトムシやセミを入れた料理を想像しているのだろう。


 いくらなんでもそんなゲテモノは俺達でも食べないからな。


「いりゃない!」


 ドリにとって虫は友達だから、想像してしまったのだろう。


 必死に土瓶蒸しを食べたくないと訴えてきた。


「虫じゃなくってそういう料理の仕方だよ? ハルキも上手に作れるよ!」


「そうなの?」


 百合に間違っていることを聞いて、表情はすぐに明るくなってきた。


 隣では春樹も表情が明るくなっていた。


「百合……俺のことを――」


 百合に褒められて嬉しそうだな。


 そもそも和食のお店をやっていた春樹なら作っていただろう。


「春樹、めんどくさい!」


 百合はそっぽ向いてドリの手を繋いでいく。


 きっと口が滑ってしまったのだろう。


 顔を赤くして、先に山に降りて行く。


 女の子って結構大変だもんね。


「ははは、めんどくさいって!」


「お前まで!?」


 俺も二人を追いかける。


 ドリにパパめんどくさいって言われたら、俺なら落ち込んじゃうだろうな。


 その辺春樹は精神的に強いのだろう。



『ワオオオオオオン!』


 あと少しで畑が見えてくるところで、犬の遠吠えが聞こえてきた。


 犬はうちにいるポテトやチップス、その子ども達しかいない。


 ただ、ちびちゃんずはまだ遠吠えができるほど大きくはないからな。


「パパ、ポテト!」


 やっぱり遠吠えはポテトの声らしい。


 あまりポテトは遠吠えをしないから、何かあったのだろうか。


「どっちから聞こえた?」


「しょうこ!」


「倉庫?」


「うん!」


 俺達はポテトの声が聞こえてきた、倉庫に向かって走っていく。


 そういえば、今日ずっと走っている気がするな。


 明日は筋肉痛で動けないだろう。


 遠くにはポテトと祖父が倉庫の前で立っている姿が見えた。


「じいちゃん何かあった?」


「ああ、これを見てみろよ」


 俺達は倉庫に着くと、中の状況に驚いた。


「どういうこと? なんでこんなに荒らされてるの!?」


「いや、来た時には鍵も壊されていてな」


 祖父とポテトは畑で作業を終えて、干していたさつまいもを見に来た時に異変に気づいたらしい。


 倉庫は南京錠で鍵を閉めている。


 だから意図的に壊されない限りは、倉庫が開けられることはないだろう。


 春樹は干していたさつまいもを一つずつ見ていく。


「食べられた痕跡はないな」


 そうなると犯人は意図的に鍵を壊して、さつまいもを踏みつけたり、割ったりしたのだろう。


『ゆるさん……』


 ポテトもさつまいもを見て、足をジタバタとしている。


 それはそれで可愛らしいが、ポテトは悔しいだろうな。


 その他の収穫した野菜もグチャグチャになっている。


 トマトなどはすでに冒険者ギルドに卸しているため、被害はそこまで多くない。


 一番の被害はさつまいもぐらいだからな。

 

「そのまま残っていてよかったな」


「無くなっていたら、金色のさつまいもは増やせないだろう?」


 ただ、さつまいもは全てそのままあるため、食べられはしないが増やすことはできるはずだ。


 また一からさつまいも畑を作らないといけないな。


「ドリもがんぼりゅ!」


「ドリがいれば魔力入りのさつまいもの入荷も間に合うかもしれないしな」

 

 俺とドリでポテトの肩を優しく撫でる。


 すぐに作ってしまえば、のびのび効果もあってギリギリ冬には間に合うだろう。


「全部持って帰っていこうか」


『うん……』


 悲しい顔をしているポテトの手を俺とドリで繋いで家に帰ることにした。


 いつもなら嫌がるのに、ポテトも相当辛いんだろうな。


「なぁ、ポテト話してなかったか?」


「ハルキ……そういうところが無神経なんだよ?」


「なぁ!?」


 倉庫では相変わらず百合に春樹は怒られていた。

「パパ、ほんがほちい」

「本が欲しいのか?」

「うん!」

 俺はスマホの前にドリと並ぶ。

「畑の日記ちゃんねるが書籍になりました!」

「ほちいね! ほちいね!」

「公式HPではSSペーパーがついてくるって!」

「えっ!?」

「しかも、書き下ろしSSはポテトと初めて散歩に行った内容だよ!」

『フンッ!』

 ポテトは呆れた顔で俺を見ていた。

 あの時の散歩大変だったからな……。

「ぜひ、手に取っていただけると嬉しいです!」

「でしゅ!」

 俺とドリは手を振って本の紹介を終えた。


「なんかあいつら胡散臭いな」

「それでハルキは出てくるの?」

「あー、俺か? それは本を見て――」

「興味ないからいいよ」

「おい、百合待ってくれ!!」

 今日も直樹とドリの周囲はバタバタとしていた。


他の作品も下のタグから飛べますので、ぜひ読んで頂けると嬉しいです。

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畑で迷子の幼女を保護したらドリアードだった。2〜野菜づくりと動画配信でスローライフを目指します〜

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