129.配信者、マツタケの生態に戸惑う ※一部腐婦人視点
「パパ……」
「ああ」
俺とドリは突然の出来事で困惑していた。
まさかマツタケが泣き叫ぶとは思わなかったからな。
ドリも驚きを通り越すと、何も反応できないようだ。
『いたいよおおおおお!』
うっ……。
まさかマツタケに痛みを感じるとは思いもしなかった。
ただ、キノコ狩りはナイフで石づきを残して根本から切らないといけないからな。
『ナイフでグサってしたああああああ!』
「あああ、ごめんごめん」
俺は急いで土の中にマツタケを戻した。
すると何も声が聞こえなくなった。
最近のマツタケは話す種類がいることを知った。
これは事前に勉強して来なかった俺の責任だな。
キノコ狩りは毒に気をつけろって言われるけど、泣き声に気をつけろって言葉も追加した方が良いだろう。
『うえええええええん!』
向こうのほうでもまたマツタケが泣いている声が聞こえてきた。
すぐに声が聞こえなくなったから、きっと春樹と百合もマツタケを採ったが、すぐに地面に戻したのだろう。
「とりあえず春樹達と相談しようか」
「うん」
俺はドリと手を繋いで春樹達のところへ向かった。
「おい、そっちは大丈夫だったか?」
「何かあったのか?」
春樹達に声をかけると、二人は何事もないような顔をしていた。
「いや、マツタケが泣き叫んで……」
「ああ、これのことか?」
春樹は近くにあったマツタケにナイフを当てた。
『うぎゃああああああああ!』
やっぱりマツタケは大きな声をあげて泣き叫ぶ。
正直この声を聞いていたら頭がおかしくなりそうだ。
精神的に病んでしまってもおかしくない。
「あー、こうやってやれば泣き止むぞ?」
次の瞬間、春樹の行動に俺とドリは驚いた。
――バシッ!
『うぐっ……』
「うるさいぞ!」
春樹はマツタケを叩いた。
もはや春樹の手がマツタケよりも大きいため、全身を叩かれているようなものだ。
人間で例えると確実に脳震盪を起こしている。
「パパ……」
「ああ」
ドリも同じことを思ったんだろう。
「鬼畜だな!」
「しゅごいね!」
あれ……?
俺とドリはお互いに顔を見合わせる。
やっぱりどこからどう見ても鬼畜だよね?
「ドリもやってみるか?」
春樹は近くにあったマツタケを再び採った。
『うぎゃああああああああ!』
ドリは嬉しそうにマツタケを受け取ると、そのまま小さな手でマツタケを叩いた。
――パチン!
「うるしゃい!」
ああ、ドリに怒られるのも悪くないなと思うほどの可愛さだ。
ただ、こんな小さい子にそんなことをさせても良いのだろうか。
改めて生配信しなくてもよかったと思った。
「ねねね、パパ見てて!」
『うぎゃああああああああ!』
今度は百合がマツタケを持って、俺のところまでやってきた。
――パチン!
「黙れ小僧!」
「ゆっ……ゆりちゃん!?」
「これでも泣かなくなるんだよ! 面白いね!」
「ドリもやるー!」
子どもの笑顔ってどんなものよりも怖いものに感じた。
それにこれがマツタケの採り方としては当たり前なんだろうか。
俺の過去の記憶と違いすぎて、正直キノコ狩りを一生したくないと思うレベルだ。
俺が戸惑っていると、春樹は優しく肩に手を置いた。
「時代は変わったんだ」
うん、やはりそう思うしかないようだね。
俺達が歳をとっておじさんになっていけば、時代に付いていけなくなってくるもんな。
「まぁ、実際はこの辺全体の生物環境がダンジョンができた影響で変わってきているんじゃないかって言ってたぞ?」
「えっ?」
「普通に考えてクマが話すことはないし、イノシシが牙を抜いて土下座することはないだろ?」
言われてみたらそうだったな。
探索者も変わった人達が多いから、動物にも個性がある程度だと思っていた。
シャンシャンもダンジョンができた影響による被害者と言えば被害者だ。
まぁ、平和に過ごせたら何も問題ないだろう。
詳しい話はわからないが、ダンジョンの難易度によってはこういうことも起こるらしい。
「とりあえずマツタケはうるさかったら叩けば良いんだな」
「ああ」
俺は春樹にマツタケの採取方法を聞き、ドリと再びマツタケ狩りをすることにした。
♢
「ねぇ、さすがに推しのあんな姿を生では見たくないわよね?」
「ドリちゃんは何をしても可愛いよ?」
「はぁー」
私達は推しのデートにただ付いてきただけだった。
いや、正確に言えばストーカー行為と言った方が正しいかしら。
でも今になって一緒に来ない方がよかったのではないかと思ってしまう。
「おい、静かにしろよ!」
「うるしゃい!」
「音痴!」
「うっぜーな!」
推し達が揃いも揃って暴言を吐いているのよ。
推しのどんな姿でも受け入れる覚悟は私達にはある。
ただ、一番受け入れられないのは、まさかのカップリングぐらいだ。
パパとマツタケってどんなカップリングよ!
でも、やっぱりこれはこれでよかったと思うほど珍しい光景だ。
「おい、本当に黙れよ!」
ああ、パパさんがあたふたしながらマツタケをペシペシ叩いているわ。
「眼福!」
もはやあれは子どもには見せたらダメなものよ。
18歳未満閲覧禁止を通り越して、発酵人界隈に広めてあげたいくらいね。
「ギュフフフフフフフフ!」
ついつい妄想して腹の底から声が出てしまったわ。
私の声に反応して、推し達が一斉にこっちを向いた。
「静かにしろよ!」
「うっしゃい!」
「黙れよ!」
「静かにして!」
あー、今日は一段と特別なファンサービスに私の体は自然と山の中にある毒キノコ全て採取してしまった。
推し達のデートをストーカーしてよかったわ。
「パパ、ほんがほちい」
「本が欲しいのか?」
「うん!」
俺はスマホの前にドリと並ぶ。
「畑の日記ちゃんねるが書籍になりました!」
「ほちいね! ほちいね!」
「公式HPではSSペーパーがついてくるって!」
「えっ!?」
「しかも、書き下ろしSSはポテトと初めて散歩に行った内容だよ!」
『フンッ!』
ポテトは呆れた顔で俺を見ていた。
あの時の散歩大変だったからな……。
「ぜひ、手に取っていただけると嬉しいです!」
「でしゅ!」
俺とドリは手を振って本の紹介を終えた。
「なんかあいつら胡散臭いな」
「それでハルキは出てくるの?」
「あー、俺か? それは本を見て――」
「興味ないからいいよ」
「おい、百合待ってくれ!!」
今日も直樹とドリの周囲はバタバタとしていた。
まだ、書籍を読んでいない方はぜひよろしくお願いいたします。
続刊できるといいなー_(:3 」∠)_
他の作品も下のタグから飛べますので、ぜひ読んで頂けると嬉しいです。