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128.配信者、キノコ狩りをする

「はぁ……もうちょっとゆっくり歩かないか?」


「えー!」


 俺以外の三人は口を揃えて速度を落とすのを拒む。


 そもそも三人を追いかけてから、そのまま休憩せずに登山になったのだ。


 正確にいえばキノコ狩りに来たはずなんだけどな……。


「畑をやっているだけじゃ体力がないようだな」


「料理人は大変なんだな」


 一方、春樹は爽やかな顔で山を登っていた。


 ああ、きっとこいつも本来の目的を忘れていそうだ。


 三人はキノコを探すよりも山を登っていくことを楽しんでいた。


「お前達キノコは良いのか?」


「はぁ!?」


 ほらほら三人とも忘れて……いるのを誤魔化していた。


 だれ一人とも俺と目が合わないからな。


 ドリはドングリを探そうとするし、百合はずーっと空を眺めている。


 春樹に至ってはびっくりして目を見開いている。


「直樹覚えていたのか?」


「おい、俺はじいちゃんじゃないぞ」


「ははは、冗談だよ」


 春樹は俺も認知症だと思っているのか?


 このまま言わなかったら、キノコ狩りを忘れてただの登山になっていただろう。


「まずキノコ狩りだけど、毒キノコとかもあるから気をつけてね」


「えっ!?」


 ドリと百合はお互いに顔を見合わせていた。


 俺達も小さい頃によく行っていたけど、久しぶりだから気をつけないといけない。


「一番気をつけるのはカエンタケってやつだな」


「カエンタケは一番危ないと言われていて、触っただけでも皮膚が炎症する猛毒だ」


 俺はスマホを取り出して、カエンタケの画像を見せる。


 山の中は電波が届かないため、事前に写真は保存している。


「この赤い指が出ているように見えるのが、カエンタケだな。火炎のように見えるのも特徴だね」


「まっきゃなおてて」


「そう、手には……いや指には気をつけないとね」


 ドリと百合はカエンタケを目に焼き付けているようだ。


 あまりカエンタケは見たこともないから、多分問題はないだろう。


 それよりもドリと百合が迷子にならないか心配だ。


 キノコ狩りの途中で行方不明になることも、よく聞く話だ。


「絶対に俺達の近くでキノコ狩りをするんだぞ!」


「はーい!」


「あとは変な動物にはついていかないこと!」


「はーい!」


 ドリと百合は俺の注意を聞きながら、手を上げている。


 本当に聞いているのかわからないが、基本的にみんなで一緒に動けば問題ないだろう。


 俺と春樹が迷子にならない限りな。


「あー、そういえばこんなアプリを肥料達が提供してくれたぞ?」


――キノコ鑑定図鑑


 奥さんである桜と百合がファンクラブに入っているため、そこから手助けになる情報をもらっているらしい。


 さすが肥料達だ。


 変わった人が多いけど、優秀な人材が集まっている印象がある。


 ただ、そこにも問題があった。


「いや、電波が届かないから起動しないんじゃないか?」


「あっ、そうだったな」


 やはり山奥だからかアプリを開いても反応はしなかった。


 春樹が教えてくれたのは、スマホで撮影するとすぐに食べられるキノコか判断できるものだ。


 鑑定スキル持ちが監修していることもあり、新しいキノコ以外はほとんど見分けがつくらしい。


 最近は便利な世の中になったものだ。


 昔は命懸けだったからな。


 あまりたくさん食べないように意識したり、湯通ししてなるべく体に害がないようにしていた。


「じゃあ、小さいナイフを渡すから、手を切らないように気をつけてね」


「はーい!」


 ドリと百合に小さなナイフを渡す。


 キノコ狩りは根こそぎ収穫すると、生えてこなくなる。


 そのため、ナイフで石づきを残して丁寧に根本から切り落とすのが基本だ。


 早速俺達はキノコ狩りを始めた。


「マツタケはアカマツっていう針葉樹の近くにあるからね」


「しんよーじゅ?」


「ああ、葉っぱが針のように尖っているからわかりやすいと思うよ」


「んー、みえにゃい!」


 ドリは一生懸命木の葉を見ようとしているが、木が大きいため葉が見えないようだ。


 ただ、探すのはマツタケだ。


「キノコが生えているのは地面だよ?」


「はっ!?」


 ドリは急いで地面に視線を戻した。


 俺達は地面をくまなく見てマツタケを探す。


 チラッと振り返ると、ドリは地面を触って何かをしていた。


「ドリ、何かあったの?」


「ユリちゃん!」


「百合?」


 ドリの手にはマツボックリが握られていた。


 たしか百合は今日一日マツボックリだったからな。


 ちゃんと覚えていたようだ。


「マツタケは落ち葉やマツボックリがあるところにはできないからな」


「しょうなの?」


「マツタケは栄養があまりないところを好む菌根菌(きんこんきん)だから、生きている木の近くにしか生えていないよ」


 落ち葉やマツボックリが蓄積すると、分厚い腐葉土のようになる。


 その環境ではマツタケは生えてこないと言われている。


 それに菌根菌は植物と共生するため、木の近くを探さないとマツタケは出てこないだろう。


「んー、パパこれは?」


「これは……」


 そこにはマツタケがいくつか生えていた。


 俺はマツタケを手に取り、ナイフを当てる。


『うぎゃああああああああ!』


 突然、マツタケが大きな声を上げて叫び出した。

「パパ、ほんがほちい」

「本が欲しいのか?」

「うん!」

 俺はスマホの前にドリと並ぶ。

「畑の日記ちゃんねるが書籍になりました!」

「ほちいね! ほちいね!」

「公式HPではSSペーパーがついてくるって!」

「えっ!?」

「しかも、書き下ろしSSはポテトと初めて散歩に行った内容だよ!」

『フンッ!』

 ポテトは呆れた顔で俺を見ていた。

 あの時の散歩大変だったからな……。

「ぜひ、手に取っていただけると嬉しいです!」

「でしゅ!」

 俺とドリは手を振って本の紹介を終えた。


「なんかあいつら胡散臭いな」

「それでハルキは出てくるの?」

「あー、俺か? それは本を見て――」

「興味ないからいいよ」

「おい、百合待ってくれ!!」

 今日も直樹とドリの周囲はバタバタとしていた。


書籍が発売されて二週間が経ちました。

 買っていただいた方はありがとうございます。

 まだの方はぜひとも書き下ろしたっぷりの書籍をよろしくお願いします!


他の作品も下のタグから飛べますので、ぜひ読んで頂けると嬉しいです。

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畑で迷子の幼女を保護したらドリアードだった。2〜野菜づくりと動画配信でスローライフを目指します〜

カクヨムコン受賞

『薬剤師の俺、ゲームの悪役に転生したみたいだがスキルが薬師で何とかなりそう』
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