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126.配信者、ファンサービスをする

 俺達はいつもの服装に着替えると、あるところに向かっていた。


「ゆーりーちゃん! あしょびましょ!」


「はーあーい!」


 扉から百合と春樹が出てきた。


「おっ、似合ってるじゃん!」


「俺くらいの男になると、ツナギすら霞んで見えるぜ!」


「うん、ハルキってパパの隣にいると霞んでいるね」


「なっ……」


 今日は俺達四人でキノコ狩りに行くことになっている。


 もちろん動きやすい服といえば、畑作業で使っているツナギだ。


 俺達はみんな同じような服を着ている。


 ああ、もちろんこれは貴婦人から頼まれたペアルックだ。


 ちなみに俺達の後ろに隠れるように聖奈と貴婦人がいる。


 一緒に行けば良いものの、推しとは一緒に歩けないと言われた。


 そんなに俺と一緒にキノコ狩りをしたくないのだろうか。


 貴腐人に春樹達とキノコ狩りに行くと言ったら、全身から毒が溢れ出すほど喜んでいたのにな……。


「ギュフフフそのままキノコと間違えて春樹さんの――」


「ドリちゃんがいるからやめてください。本当は私もあそこにいたんですよ!」


「なら行けばいいじゃない。私はあの手この手でハプニングイベントを――」


「絶対ドリちゃんの前でさせないですからね!」


 あれから聖奈と貴婦人は仲良くなったと思ったら、また今日も後ろで言い合いをしている。


「パパきにょこいこ!」


「なんか俺がキノコみたいだな」


「ははは、今日はパパキノコで良いんじゃないか?」


「なら春樹は――」


「しいたけだね」


 百合は春樹を見てしいたけと言っていた。


 確かに髪の毛が伸びて、下ろしていると椎茸の傘みたいに広がっている。


 中々この辺って髪の毛を切りに行く床屋や美容院はない。


 わざわざ町中に行くのもめんどくさいからな。


「へへへ、しいたけ!」


「あー、もう今日はしいたけでいいぞ!」


 春樹は諦めたのだろう。


 今日一日、俺はパパキノコで春樹は椎茸になった。


「ならドリはどうする?」


「んー、ドリはね……どんぎゅり!」


 どんぎゅりってドングリのことを言っているのだろうか。


 なぜ、俺達はキノコなのにドリはドングリなんだろうか。


「ドングリはキノコじゃないぞ?」


 春樹も同じことを思っていた。


「えっ……」


「ひょっとして、ドリはドングリをキノコだと思ってたの?」


「うん……。おちてるもん……」


 どうやら落ちているものをキノコと呼ぶと思っていたのだろう。


 確かに我が家では中々キノコが出てこないからな。


 あまり食べることもなければ、見た目の区別がつきにくいかもしれない。


 それにキノコ狩りの予行練習をしていたが、ドリはドングリを置いて練習していた。


 あの時もドリの中ではドングリもキノコだったのだろう。


「なら私はマツボックリにするね」


「まちゅぼっくり!」


 そんなドリを見て、百合は自分のことをマツボックリにしたようだ。


 さすが面倒見が良いだけはあるな。


「うっ……百合がこんなに成長して俺は泣きそ――」


「おいおい、まだキノコ狩りにも行ってないぞ!」


 春樹は百合の成長を喜んでいた。


 ただ、キノコ狩りにまだ行ってないからな。


 そもそも山までまだまだ距離がある。


「そういえば、桜さんは来なくて良いの?」


「ああ、桜はあっちにいるからいいぞ?」


「あっち?」


 春樹は俺の後ろを指さしていた。


 いつのまにか貴婦人の隣に、俺の顔が描かれた上着を着た桜がいた。


 うちわを持っていくのは危ないと思ったのか、いつものうちわは持っていないようだ。


「なぁ、あれってなんて書いてあるんだ?」


 文字がびっしりとトレッキングポールに書かれている。


「半分ハートしてって書いてあるらしいぞ。まるで呪文だな」


 彼女なりに登山ができる格好で推し活をしているのだろう。


 〝半分ハート〟ってこの間百合に教えてもらったやつか。


「とりあえずやっておくか?」


「相変わらずサービス精神が良いな」


 春樹は俺と肩を組んで半分ハートポーズをしている。


 一方の俺も半分ハートを作り、自分の頬の横に手を置いていた。


「ギュフフフ! 噛み合っていないのが良いわね」


「きゃー! パパさん最高!」


 貴婦人と桜は喜んでいるようだ。


「おいおい、半分ハートって言ったら俺と直樹で作るやつだろ?」


「あっ……そうなのか? この間ゆりちゃんに教えてもらったのは、頬にやるやつだったぞ?」


「はぁん!? 俺は百合に教えてもらってないぞ!」


「春樹は時代遅れだね!」


「くっ……」


 百合に時代遅れと言われて、春樹は項垂れていた。


 まぁ、こんな田舎だと流行りとかはほぼないに等しいからな。


 それに百合に教えてもらってないことがショックだったのだろう。


「仕方ないなー」


 俺は春樹の手に合わせて手をくっつける。


 ここは優しい俺が合わせてあげれば良いからな。


「ドリ、私達もやろ!」


「うん!」


 目の前でドリと百合も二人でハートポーズをしているようだ。


 ドリは大きく全身でハートの半分を作っていた。


 それを見た百合はため息を吐きながら、合わせている。


 そんな姿を遠くで見ていた三人は――。


「尊死!!!」


 その場で崩れ落ちるように倒れていた。


 貴腐人に関しては口から毒が噴き出している。


 本当に死なないか少し心配だ。


「なぁ、直樹?」


「なんだ?」


「俺達いつになったらキノコ狩りに行くんだ?」


「はぁ!?」


 ドリもキノコ狩りに行くことを忘れていたようだ。


 時計を見るとすでに30分以上は時間が経過していた。


 まぁ、ファンサービスは大事だからな。


 この時のハートポーズももちろん肥料達のファンクラブ会員の壁紙として配信されていた。

「パパ、ほんがほちい」

「本が欲しいのか?」

「うん!」

 俺はスマホの前にドリと並ぶ。

「4/20に畑の日記ちゃんねるが書籍になりました!」

「ほちいね! ほちいね!」

「公式HPではSSペーパーがついてくるって!」

「えっ!?」

「しかも、書き下ろしSSはポテトと初めて散歩に行った内容だよ!」

『フンッ!』

 ポテトは呆れた顔で俺を見ていた。

 あの時の散歩大変だったからな……。

「ぜひ、手に取っていただけると嬉しいです!」

「でしゅ!」

 俺とドリは手を振って本の紹介を終えた。


「なんかあいつら胡散臭いな」

「それでハルキは出てくるの?」

「あー、俺か? それは本を見て――」

「興味ないからいいよ」

「おい、百合待ってくれ!!」

 今日も直樹とドリの周囲はバタバタとしていた。


他の作品も下のタグから飛べますので、ぜひ読んで頂けると嬉しいです。

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畑で迷子の幼女を保護したらドリアードだった。2〜野菜づくりと動画配信でスローライフを目指します〜

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