125.恥ずかしがり屋、デートはどこにいく? ※百合視点
畑で緊急ミーティングを行った後、私も急いでパパの家に戻った。
「ねぇ、ドリ!」
「にゃに?」
「デートってどこに行こうね?」
早速私はドリとおやつのポテトチップスを食べながら、どこにデートに行くか話し合っている。
これからみんなとのデートの予定でパパが忙しくなる。
だから、先に行きたいところだけ決めておくことにした。
「やま!」
「山? あの奥の方にある?」
「うん!」
ドリは山でパパと走って遊びたいのだろうか。
以前、パパ達とポテトの散歩で山に登ったことがあると聞いている。
その時にクマが出て大変だったと……。
今じゃそのクマもパパの庭でポテトの新居を作っている。
本当にパパの周辺って絵本の世界が広がって、夢を見ているようだ。
実際にパパも畑の王子様で美味しい野菜を作っている。
「なら私もきのこ狩りがしたいって言おうかな」
「きのこ狩りはこの時季だと松茸が取れるぞ?」
「まちゅたけ?」
ドリは松茸が何かわかっていないのだろうか。
松茸って言ったらあの高級なキノコのはず。
やっぱり私は絵本の世界に迷い込んだのだろうか。
「すごく風味が豊かで、珍しいキノコなんだよ?」
「おいちいの?」
「んー、私も食べたことがないからわからないや」
前に住んでいたところでは松茸を食べる機会はなかった。
ハルキがやってたお店もたまに使うって言ってたけど、高いからあまり使うことはないはず。
「ドリもキノコかりゅ!」
「じゃあ、私達は山にキノコ狩りに行くことにしようね」
松茸が食べられるかもしれないと、ワクワクな気持ちでいっぱいになった。
デートに行く場所が決まれば、私達は何かするわけでもなくポテトチップスを食べる。
畑作業の後のおやつって一日の疲れが取れるようで、元気が出てくる。
これもパパの愛情の力だろうか。
「これおいちい?」
『ンー、ヤッパリコッチ!』
ポテトはポテトチップスを指さしていた。
さっきまでさつまいもチップスと食べ比べをしていたが、やっぱりポテトチップスが好きなんだろう。
「掘ったばかりは甘味が少ないからな。さつまいもらしい感じは少ないぞ」
『ソウダネ』
ポテトはさつまいもチップスを食べていた手を止めていた。
ずっとさつまいもチップスを期待していたからね。
乾燥が終わって少し経てば、甘くなってさらに美味しくなるだろう。
さっぱりしてこれはこれで美味しいから、私は気にしない。
それよりも私の中で気になっていることがあった。
「そういえば、ポテトが話すのはパパには内緒なの?」
『ギクッ!?』
ポテトは驚いた顔で私を見ていた。
むしろ今まで話していたのが、バレてないと思ったのだろうか。
「ななな、百合ちゃんはポテトが話しているって言うのか?」
おじいちゃんまであたふたとしている。
そんなにバレバレだったら私以外にも……気づかない人がいた。
パパはすぐに騙されてしまうからね。
いつか詐欺に遭わないか心配だ。
「ずっと前から気づいてたよ」
「ぬぬぬ……これはワシとポテトの秘密だったのにな」
ポテトが話すのは秘密だったのかな?
絵本の中でもシンデレラは魔法使いに魔法を使ってもらったのを内緒にしていた。
ひょっとしたら魔法が解けて、ポテトはポテトチップスになるのだろうか。
「んー、パパには内緒にしとくね」
「ああ、その方が助かる。今はワシの認知症で誤魔化せるからな」
認知症が何かわからないが、パパには気づかれたらダメなんだろう。
これからも気をつけないとな。
パパとおじいちゃんは似ているからね。
時々、大事なことを忘れるからここは私が目を光らせておこう。
「ポテトも気をつけるんだぞ。犬が話したって気づいたら、直樹はびっくりして腰を痛めるからな」
『ンー、ソレハジイチャンダヨ?』
「いやいや、直樹もワシの孫だからわからんぞ? それに直樹はポテトを犬だと思ってるからな!」
『ミツメウルフダヨ?』
「お前は犬だぞ!」
『ミツメ……ポテチノタメニガンバル!』
ポテトはポテトチップスが食べられるなら、何でも頑張るのだろう。
立ち上がって胸に手を当てていた。
肉球が当たってポンポンと音が鳴っている。
私もパパが腰を痛めて動けなくなるのは嫌だから、言わないようにしておこう。
「ドリも言っちゃダメだからね」
「うん!」
ドリもパパに似ているから少し心配だ。
「みんなして何の話をしてたんだ?」
大事な話をしていると、追加のポテトチップスをパパが持ってきてくれた。
『ワァー!』
ポテトは尻尾を大きく振って、追加のポテトチップスを頬いっぱいに詰めていた。
ポテトって犬じゃなくて、ハムスターなのかもしれない。
これも秘密なのかな?
「ポテトのはなち!」
「えっ……」
『わぉ……』
ドリの言葉に私はゾッとした。
周囲を見渡すと私だけではなかった。
ポテトとおじいちゃんも驚いている。
ついさっき話さないように言っていたばかりなのに……。
ポテトなんて口に詰めたポテトチップスの塊が落ちそうになっている。
「ポテト? あー、さつまいもチップス美味しくなかった」
『ウッ……ウン』
ポテトも驚いて普通に話してるよ!?
ここは一番しっかりしている私の出番だろう。
「パパ、私とドリでやりたいことが決まったよ!」
「おっ、何がしたいのかな?」
「キノコ狩りに行きたいの! 松茸があるって聞いたからさ!」
「松茸かー。昔はあったけど、今はあるのかな?」
パパは私の話に興味を示した。
これでポテトが話しているのを誤魔化せただろう。
『アルヨ!』
なんで誤魔化したのにポテトが返事をするのよ!
私はキリッとポテトを睨むとあたふたとしていた。
やっと自分が話していたことに気づいたようだ。
「松茸があるなら行くのも良いかもね! 一部の山が森田家と小嶋家が持ってるから、そこに行こうか!」
どうやら私達の家族も山を持っているようだ。
「それよりも今誰が教えてくれたんだ?」
ほらー、パパはどこか抜けているけど、たまにしっかりとしているんだからね。
本当にたまにだけど!
「ハルキやママも行きたいかな?」
「んー、ハルキは百合ちゃんが誘ったら喜んで付いてくるぞ」
「なら聞いてみるね」
「せっかくならみんなで行った方が楽しいだろうしね。俺からも連絡しておくね!」
そう言ってパパは空いたお皿を片付けていた。
ほら、またパパはすぐに忘れちゃうからね。
「私達のデートだったのに……」
ポテトの秘密を隠すために、ハルキの話をしちゃった。
ドリとパパの三人でデートしたかったのに……。
『ゴメンネ?』
そんな私にポテトも謝っているのか、ポテトチップスが乗ったお皿を渡してきた。
自分の好物を分けるくらいは反省しているのだろう。
だけど、さっきまでポテトチップスを頬に詰めていたから、あまり残っていない……。
私はポテトチップスを一枚手に取り、口の中に入れた。
やっぱりいつ食べても、パパとおばあちゃんが作るポテトチップスは美味しい。
私がこんなところで落ち込んでいたらいけないね。
「もう! 私がしっかりしないとダメなんだからクヨクヨしないの!」
私は自分の頬をパチパチと叩く。
ここはしっかり者の私がみんなを助けてあげないとね。
「いたいいたいよ?」
そんな私の頬をドリが優しく撫でてくれた。
「へへへ」
やっぱりドリとパパの三人でデートしたかったな……。
「パパ、ほんがほちい」
「本が欲しいのか?」
「うん!」
俺はスマホの前にドリと並ぶ。
「4/20に畑の日記ちゃんねるが書籍になりました!」
「ほちいね! ほちいね!」
「公式HPではSSペーパーがついてくるって!」
「えっ!?」
「しかも、書き下ろしSSはポテトと初めて散歩に行った内容だよ!」
『フンッ!』
ポテトは呆れた顔で俺を見ていた。
あの時の散歩大変だったからな……。
「ぜひ、手に取っていただけると嬉しいです!」
「でしゅ!」
俺とドリは手を振って本の紹介を終えた。
「なんかあいつら胡散臭いな」
「それでハルキは出てくるの?」
「あー、俺か? それは本を見て――」
「興味ないからいいよ」
「おい、百合待ってくれ!!」
今日も直樹とドリの周囲はバタバタとしていた。
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