124.恥ずかしがり屋、パパは少し残念な人 ※百合視点
「えー、今から急遽緊急ミーティングを始めます」
私は聖女と貴腐人とともにスマホに話しかける。
今回は私が緊急ミーティングを始めると言い出したのだ。
だって、あれをみんなに伝えないといけないからね。
「パパがデートしてくれることになりました!」
「うえっ!?」
聖女と貴腐人も驚いているようだ。
「パパって俺のことか?」
ハルキは何を言っているのだろうか。
パパって言ったら、ドリのパパしかいない。
「ハルキはハルキだよ? パパはパパ!」
「まさか――」
「それってもちろん保護者同伴必要なやつだよね?」
春樹を押し退けるようにママが会話に入ってきた。
一番驚いていたのはママだった。
きっとママもパパとデートしたいのだろう。
「んーん、ママは来なくて大丈夫だよ?」
「えっ……」
画面越しにママが落ち込んでいるのがハッキリわかった。
「おいおい、俺もそれは聞いてないぞ! いくら直樹でも百合と二人っきりは許さんぞ!」
「二人じゃないよ? ドリも一緒だもん」
その言葉に沈黙が流れる。
「はぁー、よかったー」
ハルキは安心したようにため息を吐いていた。
一方、ママは一緒に行けなくて落ち込んでいる。
デートって二人じゃないといけないのかな?
そんな決まりがあるのなら、ずっとデートしたいって言ってたのが恥ずかしい。
「ああ、皆さんこの場をうちの娘が私用で使ってすみません」
「あっ……ごめんなさい」
ママが謝っていたから、私もすぐに謝った。
「別に大丈夫でござるよ?」
だが、他の肥料達は特に気にしていなさそうだ。
「それならちょっと私も良いかしら」
貴腐人は私の前に出ると、口から毒を垂らしながら話し出した。
「私も約束を取り付けたわよ。春樹さんとパパさんがデートしてくれるわ」
「ギョエエエエエエ!」
「グゥへへへへへへ!」
「よだれが止まらないぜ!」
様々な声がスマホから聞こえてきた。
きっと貴腐人と仲が良い肥料達からだろう。
最近はママも影響されているからね。
「んっ……俺か?」
「ええ」
一方、ハルキは意味がわかっていないのか首を傾げていた。
私もなぜパパとハルキがデートするのかわからない。
むしろ二人はいつもワイワイ戯れあっているから、わざわざ出かけなくても良い気がする。
大人になっても男の子はいつでも子どもってママが言っていた。
そのうち虫取り網を持って遊びに行きそうだしね。
「それで……なぜ俺が直樹とデートするんだ?」
「私の夢を叶えてくれたのよ」
「夢……ですか?」
「推し達によるリアルデートの生鑑賞会だわ」
「はぁー」
どうやら貴腐人はパパとハルキが遊んでいるところを見たいらしい。
本当にパパもだけど、ハルキも乙女心がわかっていなさそうだ。
好きな人同士が楽しくデートするのは、ファンとしては嬉しい。
あれ?
貴腐人はパパとハルキがデートしているのを見て楽しいのだろうか。
きっとパパの幸せはみんなの幸せなんだろうな。
貴腐人も探索者だから、どこか変わり者だしね。
「ちなみに私もドリちゃんとデートしますよ!」
「はああああん!?」
今度はスマホから男性の声がたくさん聞こえてきた。
ドリとデートするのは私だけではないようだ。
それを言ったらまたみんなで遊ぶと約束してくれた。
この時季だとキノコ狩りができるってハルキから聞いている。
「他に報告することはないかな?」
ママが他に話がないか聞いてくる。
そういえば、何か伝えないといけないことがあったはず……。
あっ、パパの畑だ!
「パパの畑があぶない!」
「犯人を取り逃しました」
私と聖女の声が重なった。
肥料達にうまく伝わっていないのか、みんな首を傾げていた。
一緒の端末でミーティングをしているから、両方の音声が入っちゃうもんね。
「百合ちゃんからどうぞ」
聖女が順番を譲ってくれた。
私は頭を下げてお礼を伝える。
「パパの畑があぶないの!」
「ん? 百合、それはどういうことだ?」
「詳しい話は私がさせていただきます。先ほどポテトのじゃがいも畑に除草剤を撒いたと思われる男がいました」
「もちろん捕まえたんだよな?」
ハルキの一言に聖女と貴腐人は黙って、お互いを見つめていた。
「どっちが先に捕まえるのか言い合いをしていたら……」
「取り逃がしてしまいましたわ」
「はぁー」
肥料達からはため息が聞こえてくる。
「どっちとデートするか言い合いをしていたらしいよ?」
「ちょ、百合ちゃんそれは……」
二人とも気まずそうな顔をしている。
私は二人の後ろからハルキに向かって口をパクパクと動かす。
それに気づいたのか、ハルキは親指を立てて頷いていた。
「除草剤は撒かれてなかったんだろ?」
「はい……」
「それなら良いんじゃないか? デートはできることになったんだろ?」
さすがハルキ。
こういう時は頼りになる。
「春樹さん……」
貴腐人もハルキの一言で表情が変わっていた。
「それをパパさんにもお願いします」
うん……。
やっぱり探索者ってどこか変わり者が多いな。
「まぁ、とりあえずまた犯人が現れるってことだから、みんなで気をつけようぜ」
最後はハルキがカッコよくてまとめた。
いつもあんな姿だったら、素直に〝パパ〟と呼べるのにな……。
「じゃあ、これで緊急ミーティングを終わり――」
「百合、パパ頑張ったぞ! 褒めて――」
私は急いでリモートの接続を切った。
やっぱり私のパパは少し残念な人だった。
「パパ、ほんがほちい」
「本が欲しいのか?」
「うん!」
俺はスマホの前にドリと並ぶ。
「4/20に畑の日記ちゃんねるが書籍になりました!」
「ほちいね! ほちいね!」
「公式HPではSSペーパーがついてくるって!」
「えっ!?」
「しかも、書き下ろしSSはポテトと初めて散歩に行った内容だよ!」
『フンッ!』
ポテトは呆れた顔で俺を見ていた。
あの時の散歩大変だったからな……。
「ぜひ、手に取っていただけると嬉しいです!」
「でしゅ!」
俺とドリは手を振って本の紹介を終えた。
「なんかあいつら胡散臭いな」
「それでハルキは出てくるの?」
「あー、俺か? それは本を見て――」
「興味ないからいいよ」
「おい、百合待ってくれ!!」
今日も直樹とドリの周囲はバタバタとしていた。
発売まで……あと1日!
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