123.配信者、なぜか攻められる
「じゃあ、土が付いたままで良いから、天日干しできるところに持って行こうか」
「はーい!」
収穫したさつまいもを持って倉庫に向かった。
相変わらず力持ちのドリはたくさんさつまいもを運んでいる。
「パパ、ここでいい?」
「ああ、一個ずつ並べて行こうか」
倉庫の付近では天日干しができるように準備はできている。
俺達はそこに綺麗に並べていく。
『グルルルルル!』
俺の隣ではポテトが唸っていた。
「ポテトや、仕方ないじゃろ。今食べると甘味も少ないぞ?」
天日干しすることで、さつまいもが乾燥して保存しやすくなる。
そして、水分が抜けてデンプンが糖化することで甘くなる。
ポテトはさつまいもチップスが今すぐに食べられると思っていたのだろう。
まぁ、さっき作ってもらおうって話をしていたから仕方ない。
「試しにいくつか食べてみるか?」
『ガウ!』
ポテトは嬉しそうにさつまいもを抱えて、家に向かって走って行った。
そんなにすぐ食べたかったのだろうか。
「パパ、さつまいもは洗わなくて良いの?」
「洗って土を落とすと保存ができなくなるんだって」
さつまいもは水で洗うと、すぐに腐ってしまう。
そのため、じゃがいも同様に収穫する時は晴れている日じゃないといけない。
「パパ、ちゅるはどうするの?」
「あー、蔓は食べられるから持って帰ろうか」
「えっ……あれって食べられるの!?」
百合は蔓が食べられることに驚いていた。
「スーパーには売ってないからわからないよね。春樹も小さい頃よく食べていたぞ」
祖母がさつまいもの蔓で作る和え物や天ぷら、煮浸しは美味しい。
使い勝手も良いため、この時季にしか食べられない食材だ。
「来年にも再利用はできるがどうするんだ?」
「冬越しができないなら食べるべきだよね」
また蔓を植えればさつまいもはできるが、冬を越す前に使い物にならないかもしれない。
それだけこの地域の冬が寒いのも関係している。
「さつまいもの蔓って便利なんだね」
百合の言葉になぜかドリが嬉しそうに笑っていた。
ドリは蔓にも好かれているから、褒められて嬉しいのだろう。
さつまいもを並べ終えると、再び畑に蔓を取りに戻る。
「パパ、ネーネがいりゅよ」
さつまいも畑に戻ると、聖奈と貴婦人が何かをやっているようだ。
ひょっとしたらさっきまで配信を見ていたから、さつまいも掘りがしたかったのだろうか。
「すみません、もうさつまいも掘りは終わって――」
残念ながらさつまいもは全て掘り起こしてしまった。
俺が二人に謝ろうとしたら、彼女らはその場で座り込み頭を下げている。
どういう状況かわからず俺は戸惑っていると、ドリ達から怪しい目で見られていた。
「パパ、メッだよ?」
「さすがに畑の上で謝らせるのは……」
「直樹の鬼!」
なぜ俺が攻められているのだろうか?
そこまで言われると俺も辛くなってくる。
とりあえず、二人を立たせて話を聞くことにした。
「何かあったんですか?」
「すみません、二人でデートをするか話し合っていたんですけど――」
デートってなんのことだ?
さっき話していたことか?
「そういえば、デートするとかなんとかって言ってましたよね?」
「はい。ドリちゃんとデートするのか、春樹さんとパパさんがデートするのかという話で」
「ん? ちょっと待ってくださいね。状況が掴めないんですが――」
「私達が怪しい人を逃しちゃいましたああああああ!」
考える隙間もなく、再び二人は地面に座り込む。
もうこれはどうするべきなんだろうか。
「パパ、メッだよ?」
「そうですよ」
「直樹は女心もわからないのか」
ああ、さらに混乱してきた。
とりあえずデートをする方向性にすれば良いのか?
「わかりました。デートはします。それで――」
「本当ですか!?」
「隠れてお供しますわ」
気づいた時には聖奈と貴婦人は俺の手を握っていた。
もうそのまま倒れる勢いで攻め寄ってきた。
「あっ……はい」
「やったー!」
「これで現物を観察できますわ!」
何かわからないが二人は喜んでくれたようだ。
「それで犯人ってじゃがいも畑を荒らしていた方ですか?」
「ええ、さっき畑の周囲をずっと見ているおじさんがいたんです」
「それってただ見て回っているだけじゃないんですか?」
あまりこの辺でおじさんは見かけないが、都会にいる時は散歩しているおじさんはいくらでもいた。
現に祖父もその一人だ。
散歩の時に畑を見ていたら、特に怪しい人物にはならないだろう。
「それが手には除草剤のような容器を持っていまして」
「にゃにー!」
聖奈の言葉を聞いたドリは怒っていた。ただ、聖奈はそんなドリを見て嬉しそうだ。
終いにはスマホで写真を撮っていた。
「私達が遠くから声をかけた時にはそのまま逃げたわ。これがその時の除草剤よ」
貴婦人は毒沼から除草剤を取り出した。
容器に少し毒が付いているが問題ないのだろうか。
「ああ、今は触らない方が良いですわ。そのまま指紋鑑定に持って行きますね」
「そこまでやらなくても――」
「いえ、犯人は私達畑の日記ちゃんねるのファンクラブ会員である肥料が必ず捕まえてみせます」
「毒沼に堕としてでも捕まえますわ」
貴婦人の毒沼って言ったら、今足元の近くで沸々と何か出ているあれだよな。
一瞬、手が出てきたような気もするが、見てはいけないものを見た気がする。
もう夏は終わったのにな……。
「それだけじゃ足りないよ。パパの畑を荒そうとしていたのよ!」
俺が悪いわけではないと知ったら、百合はころっと変わった。
「百合ちゃん……」
「今すぐミーティングをするのはどうかな? ママに伝えてくる!」
どうやら俺には止められそうにないくらい話が熱くなっているようだ。
そんな中、ドリは俺の服を引っ張っていた。
「どうしたんだ?」
「パパ、かえろっか」
「ああ、そうだな」
ここにいてもやることがない俺達は蔓を回収して、自宅に帰ることにした。
「パパ、ほんがほちい」
「本が欲しいのか?」
「うん!」
俺はスマホの前にドリと並ぶ。
「4/20に畑の日記ちゃんねるが書籍になりました!」
「ほちいね! ほちいね!」
「公式HPではSSペーパーがついてくるって!」
「えっ!?」
「しかも、書き下ろしSSはポテトと初めて散歩に行った内容だよ!」
『フンッ!』
ポテトは呆れた顔で俺を見ていた。
あの時の散歩大変だったからな……。
「ぜひ、手に取っていただけると嬉しいです!」
「でしゅ!」
俺とドリは手を振って本の紹介を終えた。
「なんかあいつら胡散臭いな」
「それでハルキは出てくるの?」
「あー、俺か? それは本を見て――」
「興味ないからいいよ」
「おい、百合待ってくれ!!」
今日も直樹とドリの周囲はバタバタとしていた。
発売まであと……二日!
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