121.配信者、やっぱり喋ったよな?
「気を取り直して、次はさつまいもコンテストを始めます」
「こんてしゅと?」
「ああ! 我こそはこのさつまいもを推していますって言うのを選んでみんなに投票してもらうのはどうだ?」
さっきの数量勝負ではドリが一位で、ポテトが二位になった。
この投票によって誰が一位か決まるだろう。
幼女を見守る人 最近
もちろんドリちゃんに一票だ!
そしてドリちゃんを推しています。
パパを見守る人 最近
なら私はパパさんかな?
もちろんパパさんを推しています。
オサレシェフ 最近
俺はもちろん百合だぜ!
ってか嫁よ……俺を推してくれよ!
畑の日記大好きさん 最近
みんなまだ見てないのに決めたらダメですよ!
ちゃんと決めてからにしないと、ポテトちゃんが可哀想です。
そして、熱々夫婦は別のところでお願いします。
ハタケノカカシ 最近
カカシを置いてくれる人に俺は入れるぜ。
俺はカカシ推しだぜ。
だから早く置いてくれー!
視聴者も投票する気満々なんだろう。
コメントがどんどんと流れていく。
「じゃあ、みんなどれが良いのか決まったら教えてね」
「はーい!」
『ガウ!』
早速俺は一つ一つさつまいもを見返していく。
良いさつまいもの見分け方は簡単だ。
まず一つ目はレモンのような紡錘形をしているかどうか。
丸みを帯びている紡錘形のものは筋が少ないと言われている。
筋が多いとどうしても歯応えが残ってしまうからね。
焼き芋や蒸し芋にした時にホクホク感が少なくなるのだ。
そうは言っても筋が多いさつまいもでも、煮物やカレー、ポタージュなどで使えば問題はない。
逆に歯応えがあって良かったりもする。
「それにしても綺麗なさつまいもだな」
ただ、今回作ったさつまいもの形は植え方でサイズ感は違っても、筋張っているやつは少ない。
あとは凸凹が多いと筋が多いとされている。
二つ目は皮の色が濃くて、艶があるものが良い。
「ちゅやちゅや!」
ドリはツヤツヤするさつまいもを見つけたのだろう。
頬でさつまいもをスリスリしていた。
たしかに頬の感触で見分けることができるかもしれないな。
それを見たポテトも同じことをやっていたが、自分の毛が邪魔なんだろう。
首を傾げてはもう一度頬擦りをして、同じことを何度も繰り返していた。
そのせいかみんなの頬には土がたくさん付いている。
そして、最後は切り口に蜜が付いているかどうかだ。
それだけを注意して見ることで、美味しいさつまいもがどうかを見極めることができる。
ちなみにドリ達にもちゃんと見分け方を伝えているから問題はない。
俺はその中で一番大きく、ぷっくりしたものを選んだ。
ただ、俺の収穫したさつまいものレーンは数を優先してあるためそこまで大きくない。
形と艶やかさで勝負だな。
「みんな決まったか?」
「うん!」
『ガウ!』
どうやらみんな決まったようだ。
みんなしてさつまいもを隠して、スマホの前に並ぶ。
「ここはワシも審査員として参加するぞ」
「えっ?」
『ウッシ!』
まさか祖父自ら参加するとは思わなかった。
隣でポテトは手を握って喜んでいる。
祖父とは仲が良いから、優遇されると思っているのだろう。
「ワシは生産者として判断するだけだ。投票が終わったら、集めてもらおうか」
『ナンテコッタ』
残念だがそういうことは祖父が一番嫌っている。
ポテトはまた項垂れていた。
世の中うまくいかないことが多いからな。
これも良いきっかけになるだろう。
それよりもまた気になって仕方ない。
「今喋ったか?」
『クゥーン?』
ポテトはすぐに立ち上がり、両手を上げてやれやれとした顔をしている。
ただ、その姿はどこか焦っているようだ。
冷や汗がポタポタと垂れているしな。
「やっぱり喋ったよな?」
『ガルルルル!』
ついには喋っていないと言わんばかりに唸り出した。
「ポテトはさっきから喋っているぞ?」
『エッ……?』
祖父の一言に俺とポテトは驚いた顔で振り返る。
「さっきから喋っているよね?」
「うん!」
ドリと百合もポテトが喋っているように聞こえたようだ。
これで言い逃れはできないぞ。
ポテトは焦っているのか、周囲をキョロキョロとしている。
他に仲間を探しているのだろうか。
「直樹には聞こえなかったのか? さっきもクゥーンって言ってるぞ!」
「しょうだよ?」
あれ……?
それは喋っているっていうのか?
「さっきも何か言っていなかったか?」
「何言ってるんだ? 犬でも喋るやつはいるだろ。カラアゲも喋っているぞ?」
「うぇ!?」
どうやらカラアゲも喋ることができるらしい。
たしかに〝クゥェ!〟ってよく言っているしな。
どこか俺と祖父達の喋るっていう言葉がどこか違う気もする。
「それよりも早くしないと配信時間が終わっちゃいますよ?」
そういえば配信を始めてからすでに数時間は経っていた。
俺のやっている生配信は連続配信ができないから、早く進めないといけない。
百合に言われるまで忘れていた。
「じゃあ、みんなで一斉にさつまいもを見せるぞ!」
「はーい!」
『ガウ!』
もちろんその間は祖父にどこも見ないように、目を閉じてもらっている。
「せーの!」
俺達はスマホの向こう側にいる視聴者に向けて、さつまいもを見せた。
「パパ、ほんがほちい」
「本が欲しいのか?」
「うん!」
俺はスマホの前にドリと並ぶ。
「4/20に畑の日記ちゃんねるが書籍になりました!」
「ほちいね! ほちいね!」
「公式HPではSSペーパーがついてくるって!」
「えっ!?」
「しかも、書き下ろしSSはポテトと初めて散歩に行った内容だよ!」
『フンッ!』
ポテトは呆れた顔で俺を見ていた。
あの時の散歩大変だったからな……。
「ぜひ、手に取っていただけると嬉しいです!」
「でしゅ!」
俺とドリは手を振って本の紹介を終えた。
「なんかあいつら胡散臭いな」
「それでハルキは出てくるの?」
「あー、俺か? それは本を見て――」
「興味ないからいいよ」
「おい、百合待ってくれ!!」
今日も直樹とドリの周囲はバタバタとしていた。
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