119.配信者、振られる
早速さつまいも掘り大会を始めようとしたら問題が起きた。
「ネーネ、けんきゃ」
遠くを見ると聖奈と貴婦人が何か争いごとをしていた。
いつも一緒にいることが多い二人は、戯れあっていることが多い。
「あれは止めた方が良いんじゃないか?」
それでも祖父から見てもその争いは白熱していた。
聖奈は盾を出して貴婦人を弾き飛ばすし、貴婦人は毒で応戦している。
さすがにこのままでは畑にも悪影響が出そうな勢いだった。
「ちょっと行ってくる!」
俺はさつまいも掘り大会を中断して、聖奈達のところへ向かった。
あの二人は夢中になると、周りが見えなくなることがあるからね。
「私がドリちゃんとデートするのよ!」
「いいえ、春直のデート密着をするわよ!」
「それじゃあ、普段と変わりないじゃないですか!」
「違うわ! デートよ! あんなことやこんなこと――」
今なら危なくないと判断した俺は、言い合いをしている二人に声をかけた。
内容は聞こえなかったが、〝デート〟という言葉は聞こえてきた。
「デートしたいんですか?」
「ひゃい!?」
二人とも声にならないような驚き方をしていた。
そんなにびっくりしなくても良いのに……。
それにデートするにしても遊びに行くところなんてどこにもない。
近くに山ならあるけどな。
登山デートって中々ハードな気がする。
「でも何で急にデートなんですか?」
「いや……あそこに変なおじさんがいたんですよ」
「ええ、何か怪しい……」
おじさんとデート?
何か怪しいことをするつもりかな?
最近はパパ活という言葉もあるぐらいだ。
こんなに綺麗な女性達なら何をされるかわからない。
「パパ活なら俺が――」
「あっ!?」
聖奈と貴婦人は何かに気づいたのだろう。
すぐに別の畑の方に向かって走っていく。
俺ならおじさんでもないから、パパ活にならないと思ったが、さすがに二人とも嫌だよな。
なぜか振られたような感覚だ。
二人とも一体何がしたかったのかわからない。
ただ、周囲に散らばった毒と凸凹した地面は直してもらおう。
「パパ、はやく!」
「頑張って走ってください」
子ども達も痺れを切らしたのか早く戻ってくるように急かしてくる。
俺は急いでさつまいも畑に戻る。
さつまいも畑に戻ると、すでに百合がタイマーを設定して準備ができていた。
これでやっとさつまいも掘りができるだろう。
「よし、さつまいも堀り大会を始めようか」
俺達は横に一列に並んで構える。
「よーい、ドン!」
祖父の掛け声とともに芋掘りの開始だ。
『ウリャウリャウリャ!』
一番気合が入っているのはポテトだった。
そんなにさつまいもチップスが食べたいのだろうか。
持ち前の砂掘りでどんどんと土を退かしていく。
「ドリもパパとあしょぶもん!」
そんなポテトに負けじと必死に芋を掘っていくドリ。
「俺も負けないぞ!」
「百合もデートするもん!」
俺と百合も必死にさつまいもを掘っていく。
そういえば、聖奈達のところへ行った時もデートの話が出ていたな。
せっかく忘れていたのに、どこかモヤっとした気持ちになってくる。
「デートならドリと遊びに行けば良いか」
気持ちを切り替えてさつまいもをどんどん掘っていく。
だが、ポテトの速さに俺達は付いていけてないようだ。
さすが芋好きと言われているミツメウルフだけある。
いや、芋好きはポテト達だけか。
ミツメウルフってドリを食べようとしていたから、本来は肉食の魔物かもしれないからな。
「うー、ドリがかちゅもん!」
そんなポテトを見て、ドリは何を思ったのか両手を上げた。
するとサツマイモの蔓が伸びていき、隣のさつまいもの蔓に絡みついていた。
「んーしょ! んーしょ!」
次第に蔓が隣の蔓を引っ張り出した。
「これって相互収穫というやつか……」
「パパ、さすがにそれはないと思うよ?」
「だよね……。そんなことがあったら、農業業界に革新が起きているか」
農業業界はただでさえ人手不足なことが多い。
朝は早いし中々重労働だ。
収穫量も何かがあったら変化するし、収穫時季は決められている。
生産者で全てが調整できるわけではないのが現状だ。
ドリが作る野菜は早くできるし、相互収穫ができたらこの世はもっと美味しい野菜で溢れるだろう。
「うぉ、俺達も見ている場合じゃなかった!」
「私も負けちゃう!」
俺と百合も負けないように必死に芋掘りをしていく。
しばらくすると、芋掘りを終えるタイマーの音が鳴り響いた。
「そこまで!」
祖父の声で俺達の芋掘り大会は終わった。
「パパ、ほんがほちい」
「本が欲しいのか?」
「うん!」
俺はスマホの前にドリと並ぶ。
「4/20に畑の日記ちゃんねるが書籍になりました!」
「ほちいね! ほちいね!」
「公式HPではSSペーパーがついてくるって!」
「えっ!?」
「しかも、書き下ろしSSはポテトと初めて散歩に行った内容だよ!」
『フンッ!』
ポテトは呆れた顔で俺を見ていた。
あの時の散歩大変だったからな……。
「ぜひ、手に取っていただけると嬉しいです!」
「でしゅ!」
俺とドリは手を振って本の紹介を終えた。
「なんかあいつら胡散臭いな」
「それでハルキは出てくるの?」
「あー、俺か? それは本を見て――」
「興味ないからいいよ」
「おい、百合待ってくれ!!」
今日も直樹とドリの周囲はバタバタとしていた。
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