118.祖父、芋掘り指導をする ※祖父視点
さぁ、始まったさつまいも掘り大会。
わしが眺めていると、みんなして首を傾げて戻ってきた。
「じいちゃん、なんかコツってあるの?」
まさかさつまいも掘り大会を始めるって言った側から助けを求めてきた。
急に始めてもどれを掘ったら良いのかわからないのだろう。
わしの可愛い孫達だな。
そんな孫達にわしが掘り方をアドバイスしていく。
「まずは葉や茎が枯れているのかの確認だな」
直樹が作ったさつまいも畑は青々と茂った葉が水気を失い、赤や黄色に変色している。
この状態こそがさつまいもにしっかり栄養が行き渡った証拠だ。
あいつも今じゃ立派な生産者だからな。
「じいじ、きいろ!」
「じいちゃんは黄色じゃなくて肌色だよ?」
「おい、誰がハゲじゃ!」
こうやって可愛い孫達はわしをすぐハゲ扱いをする。
確かに前よりは薄くなったからな。
最近は直樹と春樹の学生時代の写真や話と交換に、貴婦人から毛が生えやすくなる育毛剤をもらっている。
昔懐かしい物々交換ってやつだな。
だが、直樹と春樹の昔話が情報になるとはわしも思わなかった。
今の世の中何に価値があるのかわからない。
「そのうちボーボーのロン毛になるからな!」
「ボーボー?」
「ロン毛?」
ドリと百合は首を傾げている。
そういえば育毛剤のことは隠していた。
すぐに口を塞ぐと、ポテトがわしを励ますように叩いていた。
『ワケテクレ!』
ああ、ポテトも換毛期に悩んでいると言っていたな。
「ロン毛は髪の毛が長いことを言うんだよ」
「へー」
「早く芋掘りしたいね!」
だが、ドリとユリはわしのロン毛には全く興味がないようだ。
じいちゃん、悲しいぞ!
昔はミュージシャンにも憧れていた時代もあったからな。
「じいちゃん、今はロン毛ってあまり言わないらしいよ?」
スマホというやつを見ながら、直樹がアドバイスをしてきた。
「そっ……そうか」
世の中の流行りの言葉ってわからないな。
貴婦人にも色々教えてもらっているが、ナオハルかハルナオどちらが良いかとよく聞かれる。
年寄りには生きづらい世の中になったものだ。
まぁ、わしは認知症だから覚えても忘れてしまうから仕方ない。
「それでさつまいも掘りについてだが――」
『ハヤク!』
ポテトがわしの服を引っ張ってくる。
「ああ、そんなに急かすなよ。今日の夜渡すからな」
『ウン!』
秋にあった換毛期で悩んでいたのはワシも知っているからな。
今日の夜から育毛剤をかけてあげよう。
「ポテトが早く芋掘りしたいらしいから、早速始めようか」
ん?
なんか直樹は勘違いしているぞ?
別にポテトは早く芋掘りがしたいわけじゃないからな。
『グルルルルル!』
ほら、ポテトが怒って直樹のお尻を狙ってるぞ。
「うわ、ポテトやめろ!」
ポテトは相変わらず直樹のお尻を噛んでいた。
直樹のお尻を噛むと元気になるらしい。
本当に世の中についていけないぞ。
「犬の気持ちもわからないと、女性の気持ちもわからないだろ」
「パパ、ドリのきもちわかりゅよ?」
「百合のこともわかるよ?」
女の子の気持ちはわかっても、女性は中々気難しいからな。
ポテトも気が済んだのかわしのところへ戻ってきた。
背筋もピシッとして、元気になったようだ。
今流行りのエナジードリンクってやつなのかな?
今度わしも直樹のお尻を噛ませてもらおう。
「じゃあ、芋掘りを教えるぞ」
わしはさつまいも畑に足を踏み入れる。
本当にこの土は良い土だ。
栄養もたっぷりでしっかりしている。
さつまいもを植えたのは夏頃だったが、わしもどんなさつまいもになっているのか気になっていた。
「まずはツルを退かして――」
「えい!」
ドリが手を上げるとツルが飛んでいく。
ドリは不思議な子だからな。
ツルもそんなドリが好きなのか勝手に動いてしまう。
まるで足が生えているみたいだな。
「スコップを入れるとさつまいもを傷つけるからな。まずはゆっくりと土を柔らかくしてから、掘るんだぞ」
スコップをツルがあった根元に入れると、せっかくできたさつまいもが傷ついてしまう。
だから、周りからゆっくりと土をほぐしてさつまいもを探すのが一般的だ。
『ワチョチョチョ!』
隣ではポテトが一生懸命土を取り除いていた。
いや、あれは直樹にかけているのだろうが、本人は全く気づかずにさつまいもを掘っている。
背中に土を被っているのにな……。
『ハァー』
そんな直樹を見てポテトはため息を吐いていた。
なんやかんやであいつは直樹のことが好きだ。
たまに直樹の部屋に行って一緒に寝ていることをわしは知っているぞ。
何か別のイタズラを見つけたのか、ポテトは直樹の方へ近寄っていた。
「一つあったらどんどん見つかるはずじゃ。全部収穫するんだぞ!」
「はーい!」
子ども達は返事をしてさつまいもを掘っていく。
そういえば、さつまいも掘り大会をするってさっきまで言っていなかったっけ?
ゆっくりと楽しそうにやっているけど問題ないのだろうか。
――ピピピピ!
何かの音が鳴り響いていた。
「ハァ!?」
「ドリ、どうしたの?」
「パパ、いもたいかい!」
「あっ……」
どうやら直樹もドリに言われて気づいたのだろう。
あの音は直樹がいつも撮影しているところから流れていた。
「あああ、皆さん! 決して忘れていたわけではないですからね!」
「そそそ、そうよ。練習は大事ってハルキもよく言ってるよ」
きっとしっかり者の百合も芋掘りが楽しくて忘れていたのだろう。
別にさつまいも掘りは競うことでもないからな。
いや、あいつだけはイタズラで競っているな。
その証拠に直樹が掘ったさつまいもはなくなっている。
ポテトは直樹が掘ったさつまいもをひっそりと、自分が堀ったさつまいもに混ぜていた。
「ポテト!」
『シィー!』
わしに見られていたのがバレてビクッとしている。
まぁ、わしもそんなことで怒るじいさんじゃないからな。
「じゃあ、今から芋掘りはじめるよー!」
「はーい!」
今から芋掘りを始めると言われて、ポテトはガッカリとしていた。
せっかく直樹の分から盗んできたのにな。
まぁ、育毛剤をつけたらあいつも元気になるだろう。
今日も孫達は元気に遊んでいるようだ。
「パパ、ほんがほちい」
「本が欲しいのか?」
「うん!」
俺はスマホの前にドリと並ぶ。
「4/20に畑の日記ちゃんねるが書籍になりました!」
「ほちいね! ほちいね!」
「公式HPではSSペーパーがついてくるって!」
「えっ!?」
「しかも、書き下ろしSSはポテトと初めて散歩に行った内容だよ!」
『フンッ!』
ポテトは呆れた顔で俺を見ていた。
あの時の散歩大変だったからな……。
「ぜひ、手に取っていただけると嬉しいです!」
「でしゅ!」
俺とドリは手を振って本の紹介を終えた。
「なんかあいつら胡散臭いな」
「それでハルキは出てくるの?」
「あー、俺か? それは本を見て――」
「興味ないからいいよ」
「おい、百合待ってくれ!!」
今日も直樹とドリの周囲はバタバタとしていた。
他の作品も下のタグから飛べますので、ぜひ読んで頂けると嬉しいです。