117.配信者、ご褒美を決める ※一部聖女視点
「ルールは簡単! 10分の間にどれだけさつまいもが採れたかを競います!」
俺はドリ達の方を見ると頷いていた。
どうやらルールはわかったようだ。
事前にスマホでタイマー機能をつけておく。
「ねぇ、パパ?」
「百合ちゃんどうした?」
「せっかくだから勝った人にご褒美とかあったらいいな?」
百合の言葉にドリも大きく頷いている。
ドリも何か欲しいものがあるのだろうか。
「おー、そっちの方がやる気が出ていいね!」
ご褒美がないと競う意味はなくなるからね。
それにしてもご褒美って言ったら何が良いのだろうか。
「んー、どこかに遊びにいくとか?」
「やま!」
ドリは近くにある山を指さしていた。
確かにあまり山登りはしたことないからなー。
むしろ、俺の体力がなさすぎて遠慮していた。
さすがに山が欲しいとは言わないだろうしね。
ドリが勝ったら山登りね。
「私もパパと遊びに行きたいかな?」
「ん? 俺と遊びたいのか?」
「うん!」
どうやら百合が勝ったら二人で遊びに行きたいらしい。
それぐらいいつでも行ってあげられるが、正々堂々とドリに勝って行きたいと。
男にはわからない少女の戦いがあるのだろう。
それに百合と遊んでたら春樹が怒ってくるからな。
あいつは思ったよりも女々しい性格だ。
きっと数日は耳元で〝俺も行きたかった〟と呟いている姿が目に浮かぶ。
スマホを見るといくつかコメントが流れていく。
貴腐人様 最近
私もぜひ参加したいわ!
鉄壁の聖女 最近
ぜひドリちゃんとデートさせてください!
名無しの凡人 最近
お前ら仕事をサボるなよ!
孤高の侍 最近
しっかり見回りすると約束したでござるよ!
「ぬああああああ!」
遠くで聖奈と貴婦人が叫んでいた。
コメントにも俺達と遊びたい人は多いようだ。
そんなにみんなで遊びたいなら、俺のご褒美はこれにしようかな。
「なら俺が勝ったらみんなで遊びに行こうか」
せっかくなら俺も出かける提案をすることにした。
この地方って冬になると雪が降って出かけるのも大変になるからな。
秋の間は出かけられるだけ、遊んだ方が良いだろう。
未婚の母 最近
ぜひ、その時も生配信お願いします!
畑の日記大好きさん 最近
私達も参加できたら良いんだけどね……。
「皆さんは参加できないですもんね」
住所を教えているわけでもないため、遊ぶことになっても、視聴者は来ることができないだろう。
「最高難易度のダンジョンでどこに住んでるのか――」
『ユリ、シッ!』
珍しくポテトが百合に静かにするように注意していた。
そんなポテトのご褒美はどうしようかな。
「ポテトが勝ったら俺と遊ぶ――」
『グルルルルル!』
ポテトが唸って歯をキラリと見せてきた。
どうやら俺と遊ぶのは嫌らしい。
「それならばあちゃんにさつまいもチップスを作ってもらおうか!」
『ワォ!?』
「ばあちゃんのポテトチップスもうまいけど、この時季のさつまいもチップスは最高だからなー」
『ワオオオオオン!』
どうやらポテトが勝った時のご褒美はさつまいもチップスに決まったようだ。
「よし! ご褒美が決まったので、さつまいも掘りをはじめます!」
俺はタイマーの機能を使って制限時間を10分に設定した。
俺以外の二人と一匹は位置について構える。
「よーい、スタート!」
タイマーを押したと同時にさつまいも畑に向かって走り出した。
♢
「はぁー、私達も参加したかったわね」
「事前にパパさんに予定を聞いておくべきでしたね」
私は貴婦人とともに双眼鏡でドリちゃん達の様子を伺う。
あのさつまいも掘りに参加していたら、絶対にドリちゃんとのデート権はもらっていたからね。
今でもドリちゃんと登山デートができないのが悔しい。
「ん? あれって何かしら?」
「今はさつまいも掘りに忙し――」
「仕事はちゃんとしなさい!」
貴婦人は何かに気づいたのだろう。
私の顔ごと違う畑に向けた。
そこにはコソコソとしているおじさんがいた。
明らかに畑の周辺をクルクルと回っては立ち止まっている。
「おじいちゃんにしては動きがおかしいわね」
「さっきパパさん達のさつまいも掘りを見てなかったでしたっけ?」
私は貴婦人と顔を見合わせる。
「ふふふ、これでドリちゃんとデートができるわ」
「いやいや、パパさんと春樹さんのデート密着権は渡さないわよ」
きっとあの人が除草剤を撒いた犯人であろう。
貴婦人との間に火花が散る。
私と貴婦人はお互いにSランクの冒険者だ。
手加減しないと畑ごと吹き飛ばされる可能性がある。だが、この戦いは命を賭けても負けられない。
さつまいも掘り大会と共に、Sランク冒険者同士の戦いが畑の横で始まった。
「パパ、ほんがほちい」
「本が欲しいのか?」
「うん!」
俺はスマホの前にドリと並ぶ。
「4/20に畑の日記ちゃんねるが書籍になりました!」
「ほちいね! ほちいね!」
「公式HPではSSペーパーがついてくるって!」
「えっ!?」
「しかも、書き下ろしSSはポテトと初めて散歩に行った内容だよ!」
『フンッ!』
ポテトは呆れた顔で俺を見ていた。
あの時の散歩大変だったからな……。
「ぜひ、手に取っていただけると嬉しいです!」
「でしゅ!」
俺とドリは手を振って本の紹介を終えた。
「なんかあいつら胡散臭いな」
「それでハルキは出てくるの?」
「あー、俺か? それは本を見て――」
「興味ないからいいよ」
「おい、百合待ってくれ!!」
今日も直樹とドリの周囲はバタバタとしていた。