115.配信者、朝の日常
翌朝、眠たい目を擦りながら一階に行くと探索者達が何か話し合いをしていた。
夜中に目を覚ました時も俺達のために色々と考えてくれているようだ。
途中で起きると寝不足で頭がぼーっとするな。
「あれ? ばあちゃん、ポテトはどこに行ったの?」
「じいちゃんと畑の見回りに行っているよ」
どうやら朝から畑が荒らされていないか見に行ったようだ。
パノラマカメラで見れると分かっていても、現場で捕まえないと意味がないからな。
「チップス、お父さんが子育て放ったらかしにしているけど大丈夫か? これってワンオペってやつだろ?」
『クウーン』
チップスも困ったような表情をしていた。
子ども達に乳を飲ませているが、元気な三匹を面倒見るのは一人では大変だろう。
すでに体が伸びるきたひめの下半身部分がどこにあるのかわからないし、めーくいんはカッコつけながら、乳首を指と指の間に挟んで、タバコのように吸っている。
本当に個性が強すぎる。
「だんしゃっくもみるくだよ!」
ドリはだんしゃくを抱えてチップスの元に戻してきた。
一緒にご飯を食べようと居間で正座して待っていたらしい。
「それにだんしゃく大きくないか?」
『ハウ?』
なんだという顔をしただんしゃくはこっちを見ていた。
昨日はまだ子犬感はあったが、すでに三ヶ月程度まで大きくなっている。
俺があまり犬のことを知らないからだろうか。
それにしても、生まれたばかりなのに情報量が多すぎる。
「こりゃー子育ても大変だね。ポテトもお父さんらしく――」
『グルルルルル!』
唸り声がすると思ったら、仁王立ちしているポテトがいた。
あっ、これはダメなやつだぞ……。
「おい、別にポテトを攻めているわけでは……イタタタタ!」
ポテトは俺のお尻をおもいっきり噛んできた。
確実に普段の甘噛みよりも強めだ。
だが、そんなポテトに怒っている者がいた。
『ガウ! アンチャガワルイノヨ!』
ん?
何か話したのか?
まだ寝ぼけているからそう聞こえているのだろう。
『クゥーン』
チップスに叩かれてすぐに反省はしているようだ。
子どもを生んだ母が強くなるとは、こういうことを言うのだろう。
すぐに俺のお尻を優しくチップスが撫でてくれた。
だが、それに嫉妬してめーくいんが叩いてくるから何とも言えない。
さっきから探索者が話し合っているのもポテトのためだった。
会話のほとんどが誰が畑の見回りをするのか、画面を監視するのか話し合っている。
「お昼は私担当です!」
「春樹さんといる時は私が行くわ!」
「お前達ほとんど私利私欲のためだろ?」
「違います!」
「違うわ!」
俺とドリが畑仕事をしている時は、聖奈と貴婦人がほとんど見回りをしてくれるらしい。
犯人が誰かわからないが、見回りしてくれるだけで助かる。
今後冬になったら畑作業は一時中断することになるだろう。
それまでにはたくさんの野菜を収穫しておきたい。
そんな時に除草剤を撒かれて、せっかくできた野菜が台無しになったらドリも悲しんでしまう。
「皆さんご飯の準備をしてください」
「はーい!」
探索者達は各々祖母の作った料理を運んだり、お皿の準備をする。
今日も朝からたくさんの料理が置かれていく。
こうやってみんなで食事の準備をするのも、テーブルを囲むのも当たり前になってきたな。
祖母も毎日たくさん料理をして楽しそうだ。
「それで見回りはどうすることになったんだ?」
祖父も畑が荒らされていたのが気になっているのだろう。
積極的にどうするか話に参加していた。
「今のところお昼は私達が担当します。肝心なのは夜なんですよね」
「夜だと女性達は危ないですもんね」
「ああ、夜は暗いから危ないもんな」
近くにダンジョンがあるから、男の探索者達は大勢いる。
魅力的な聖奈と貴婦人が夜中に一人で歩いていたら、襲われてしまう可能性がある。
「グフッ!?」
「ゴホッ!」
その場にいた俺達森田家以外は咽せて咳き込んでいた。
侍が食べていたご飯粒が俺の顔にまで飛んでくるぐらいだ。
瞬時に毒でガードした貴婦人も、さすがSランク探索者って感じだ。
まぁ、見慣れた光景だから特に驚くことでもないしな。
「こういうところがパパさんの良いところなのよ……。あなた大丈夫かしら?」
「今すぐに救急車を……」
「あらあら、お薬待ってきましょうか?」
隣で倒れている女性陣も見慣れた光景だ。
祖母は何かの薬を取りに行った。
ああ、今日も変わらない平和な1日が始まりそうだ。
「パパさんぼーっとしているけど寝ていないか?」
「ドリちゃん、あれはきっと寝ているでござるよ!」
「パパメッ!」
俺はドリに揺さぶられて目を覚ました。
朝は眠いから仕方ないな。
それで夜は誰が見回りするんだったんかな?
俺はその後もぼーっとしながら、朝食を食べていた。
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