114.聖女、緊急ミーティングをする ※聖奈視点
その日の晩に畑の日記ちゃんねるファンクラブである肥料達による緊急ミーティングが開催された。
もちろん私達も参加している。
「えー、皆さん緊急ミーティングに参加ありがとうございます」
私は貴婦人と一緒にリモートを繋げている。
私達がこの畑の日記ちゃんねるファンクラブの会長と副会長だからね。
使えるだけのお金と権力を使って勝ち取った。
他の肥料達も身近にいる私達の方が、安全だと思ったのだろう。
「それで今回話し合うのは、パノラマカメラをここでみんなに共有していることを伝えるかどうかよね」
「私もドリちゃんを守るためには、カメラは必要だと思う」
「私もパパさんのカップリングに必要だと感じているわ」
画面に映る大半の肥料は頷いている。
近くに住む桜や百合も同じ気持ちだ。
不思議な顔をしているのは、凡人と侍ぐらいだろう。
あの二人は未だに何に魅了されて肥料になっているかわからない。
ほとんどの肥料はパパさんかドリちゃんを愛している。
いや、崇拝していると言ったほうが良いだろう。
私は死ぬまで崇拝を誓ったその一人だ。
当の本人は施しとしてミミズをくれたけどね。
嬉しさのあまりに施しを飾っていたら干からびていた。
あの時はショックのあまりにダンジョンで魔物を倒しまくった。
途中で人の形をしたものに盾をぶつけたが、小さなオーガだろう。
まぁ、探索者でも私の攻撃を避けられない人は最高難易度のダンジョンでは死んでしまう。
それがわかる良い機会だ。
「ではパノラマカメラはこのまま継続していきましょう。ただ、どうやって捕まえるかですね」
「あのー、畑の日記大好きさんです。誰かパノラマカメラの映像を録画している人はいませんか?」
しばらく待ってみるが、首を縦に振る者はいなかった。
そこはプライベートってこともあり、映像は共有していても録画はしていなかった。
ドリちゃんが誘拐された時に、勝手にやったパパさんの寝顔スクリーンショットタイムでも、賛否があったぐらいだ。
「あらー、遅れちゃったわね」
そんな中遅れて現れたのは、唯一犯人を知っている可能性が高いオホモダチだった。
「遅い! それにあなたばかりドリちゃんに締め付けられて羨ましい!」
「そうだ!」
「俺に代われ!」
私以外にもドリちゃんの蔓で縛られたい人達はいる。
推しを独り占めするのはあまり良くない。
「そんなこと言ったらカメラの映像を渡さないわよ」
ん?
ひょっとしてパノラマカメラの映像を録画していたのか?
「おい、お前! それは禁止行為だぞ!」
「そうでござる! そもそも録画して何に使うつもりでござるか?」
「それは決まって――」
「ああああああああ!」
突然貴婦人が大きな声で叫び出した。
オホモダチが何を言ったのか聞こえなかったが、パパさん達が起きていないか心配だ。
今は夜中の1時ぐらいだからね。
気配察知の感度を高めて、周囲を警戒する。
同じように侍もスキルを発動させているようだ。
「こんなところで卑猥なことは言わないでくれるかしら? それに早く動画を寄越しなさい!」
私の隣では貴婦人が怒って、顔面から溶けてきている。
このまま家を溶かさないか心配で、私は急いでバケツを取りに行く。
「あっ……」
扉を開けると、そこにはドリちゃんをトイレに連れて行くパパさんがいた。
不思議そうな顔で私達を見ている。
「パパさんの動画は全員に共有――」
「あわわわ、貴婦人さん!」
私の声に貴婦人は気づいたのだろう。
振り返るとパパさんと目が合っている。
「動画ってなんのことですか?」
どうやら気づかれてしまったようだ。
貴婦人は一瞬で溶けて逃げようとしていたが、そうはさせない。
彼女には連帯責任で謝ってもらう。
「聖奈さん何をされているんですか?」
持ってきたバケツで拾い上げると、すぐに逃げないように机を被せる。
「これで貴婦人を閉じ込められる!」
「私は悪くないわ! 悪いのはオホモダチよ!」
「あらー、なおきゅんとドリちゃんこんばんは!」
画面越しにオホモダチがドリちゃんに手を振っている。
「こんびゃんは!」
ドリちゃんは眠そうな目を擦りながら、画面に向かって挨拶をしている。
その姿に視聴者はメロメロだ。
「それで動画って何ですか?」
パパさんの言葉に周囲は静かになっていく。
誰も反応がないのだ。
「ええ、私が――」
「私達がドリちゃんがまた誘拐されないように、パノラマカメラの映像を録画していたんです!」
咄嗟に畑の日記大好きさんが言い訳を考えついたようだ。
あの男に話させたら、何が起こるかわからないからな。
「あー、そうなんですね。あっ、だからその映像から犯人がわかるってことですか?」
「そうなんです!」
私はすぐ返事をする。
ここは肥料の力を合わせて乗り越えないといけない。
それに他の肥料がオホモダチを追放したようだ。
ここにいる人達は仕事ができる人ばかりだからね。
「拙者がその役目を引き受けるでござる」
急に天井が外れると、屋根裏から侍が現れた。
なぜ、そこから現れたのか不思議だったが、眠たそうにしていたドリちゃんは目を輝かせていた。
新しい遊びだと思ったのだろう。
「ぜひ、お願いします! あっ、良ければ今度動画編集とかも教えてもらえますか?」
「拙者に任せるでござる!」
パパさんも動画編集の方法を教えてもらえることになり、嬉しそうにしていた。
「ドリ、トイレ行って寝ようか」
「うん!」
「皆さんもあまり夜更かししないように気をつけてくださいね」
そう言ってパパさんは部屋を後にした。
「はぁー」
私達は一斉にため息を吐いた。
変な勘違いをせずにどうにかなったようだ。
それにパノラマカメラの録画はパパさん公認になった。
これからは気にせず録画をしながら、推し活が出来るだろう。
これが後にパパさんが聖人様と呼ばれるきっかけになったとか、ならなかったとか。
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