111.配信者、円陣をする
聖奈の口を押さえている貴婦人を中心に、除草剤を撒いた犯人が誰なのか、今後来た時の対策を立てていく。
結局のところ犯人を見ているのはイノシシしかいないのが現状だ。
まずは情報を集めるところから、始めることになった。
「除草剤を巻いた犯人のことに関しては、しばらくはカメラで確認しながら様子を見るしかないかな」
「きっとそれが良いわね。私達探索者も手伝うから気にしなくても大丈夫よ」
結局のところせっかく付けたカメラで、定期的に確認するしかない。
『ブヒブヒ!』
微かに脇腹が痒いと思ったら、イノシシが俺の脇腹を突いていた。
ドリとは違い、ちゃんと力の加減はできているようだ。
話し合いにイノシシも正座をしながら参加していた。
「ひょっとしてお前も手伝ってくれるのか?」
『ブヒィ!』
どうやらイノシシも協力的のようだ。
日中は俺や祖父母が畑にいるため、人が近づいたらわかるだろう。
さらに見回りをしてくれる存在がいたら、相手もやりにくいだろうしな。
あとは夜中をどうするか考える必要があったが、どうやら貴婦人達に何か提案があるらしい。
今回は探索者達にも頼ることにした。
「パパ、あれやりゅ!」
「おっ、いいね!」
俺達はドリのアイデアで円になるように集まっていく。
ドリがやりたいと言ったのは円陣だった。
イノシシやシャンシャンは、どういう状況かわからないのか、キョロキョロとしながら集まってきた。
人間と動物が協力して、何かをするとは思いもしなかった。
それは俺だけではないだろう。
もふもふした手や小さな子どもの手など、様々な手が中央に集められる。
俺達家族だけだったのに、いつのまにかここに住む人達も増えてきたな。
「よし、絶対に犯人を捕まえるぞ!」
「ちゅかまえるじょ!」
「見つけたら即殺します!」
「あっ、いや……聖奈さんそれはやりすぎですよ?」
さっきまで貴婦人に口を塞がれていた聖奈が物騒なことを急に言い出した。
ドリに悪い影響を与えると思って、貴婦人が塞いでいたのだろうか。
「パパさんは手を汚さないので大丈夫ですよ」
うん、そういう問題ではないはず。
「ええ、私の沼に落とせば証拠は残らないからちょうど良いわ」
ああ、この人達って少し様子のおかしい最強探索者だってことを忘れていた。
凡人と侍を見るが、すでに諦めたような顔をしている。
聖奈と貴婦人は気にしないことにした。
「とりあえず、捕まえたら俺に教えてくださいね?」
「はーい」
どこか嫌そうな顔をする聖奈と貴婦人。
ひょっとしたら、一番危ないのは熊のシャンシャンやイノシシではないのかもしれない。
「よし、いくぞ! えいえいおー!」
「……」
あれ?
なんで俺だけ一人で手を上に上げているんだ?
部屋は静まり返っていた。
『はぁー』
どこからかため息が聞こえてきた。
「直樹、さすがにえいえいおーはないと思うぞ?」
『ワン!』
まさか円陣の掛け声に対して、注意されるとは思わなかった。
小学生の時とかは、えいえいおーって言っていた記憶があったが間違っていたのだろうか。
「ここは畑の日記ちゃんねるのおまじないが良いんじゃないか?」
おまじないと言ったら俺はあの言葉しか知らない。
そんな力が抜けるような円陣で良いのだろうか。
「パパ、ドリがやりゅ!」
ドリが目をキラキラと輝かせていた。
ここはドリに任せたの方が良さそうだ。
「よし、仕切り直して……一致団結! みんなで頑張るぞー!」
下に向かって、さらに手を押し込む。
みんなでドリの顔を見ると、嬉しそうに大きく息を吸った。
「のびのびー!」
「のびのびー!」
俺達は大きく体を伸ばしながら手を上げた。
この日からおまじないの言葉は、円陣にも使われるようになった。
「パパー!」
ドリは赤い紙でラッピングした箱を渡してきた。
そう言えば、今日はバレンタインデーだ。
俺はニヤニヤとしながら、包装紙を開けるとそこには本が入っていた。
ドリはそんな俺を見てニコニコしている。
「この度畑の日記ちゃんねるが書籍化することになりました!」
「なりました!」
俺はドリと共に描かれた本を視聴者に見せる。
「ぜひ、手に取ってください」」
「ね!」
俺はスマホに触れて配信を終えた。
この度、書籍化することが決まりました!
詳しい話は活動報告で確認して頂けると嬉しいです。