106.配信者、家族が増える
しばらく待っていると二匹目の頭が見えてきた。
頭のサイズからして、さっき生まれてきた子よりも少し小さめな気がする。
「今度は手伝わなくても大丈夫かな?」
「だいじょぶ?」
「自分で出てくるのが一番だからね」
俺はドリと共に次の子が出てくるのを待った。
一方、ポテトと祖母は一匹目の子をタオルで包んで様子を見ている。
『ギャオギャオ』
しっかりと息をして鳴いているため、問題はないだろう。
それにしても鳴き方が独特だ。
そんな中一階では何かバタバタと物音が聞こえてきた。
――ガチャ!
「直樹、大変だ! 畑が荒らされ……子どもが生まれたのか!?」
出かけていた祖父が急いで帰ってきた。
すぐに祖母に駆け寄ると、嬉しそうな顔で生まれたばかりの子犬を見ている。
きっと俺が生まれてくる時も、あんな顔をしていたのだろう。
祖父はポテトと仲が良いため、よほど嬉しいようだ。
その証拠にポテトと手を繋ぎ何か踊っていた。
ポテトは祖父の相棒って感じだな。
ドリも混ざりたいのか、俺と祖父達をチラチラ見ているが手を握って止めた。
『ガルルルル!』
「あんたら静かにしなさい! チップちゃんが今頑張っているじゃないの!」
祖母に怒られた祖父とポテトはシュンっとしていた。
チップスも必死に踏ん張っていたのに、夫であるポテトが踊っていたら、イライラするのもわからなくもない。
明らかに今はそんな場面ではないからな。
チップスが再び踏ん張り出すと、体が少しずつ見えてきた。
ただ、ここでも問題が起きた。
「あれ? なんか胴が長くないか……」
前脚が出てきたと思ったら、一向に後ろ脚が出てこないのだ。
ミニチュアダックスフンドのような犬種なのかと思ったが、さすがにこんなにも伸びないだろう。
一匹目の時にも思ったが、そもそも大きく育った影響か全体的に大きめだ。
『イダイヨ……』
中々出てこないため、チップスも苦しそうにしている。
一度力むのをやめて、再びソワソワと動き出した。
子犬の頭が床に擦りそうで、俺は必死に持ち上げる。
「チップス落ち着け! 俺が引っ張るから、もうちょっと頑張れよ!」
『ガウ』
小さく頷くとチップスは力み出した。
俺は出ている体を掴むとチップスに声をかける。
「いくぞ!」
チップスが強く力んだ瞬間に、ゆっくりと俺は子どもを引っ張る。
「おおお……うおーい!」
すぐに出てくると思ったが、どんどんと伸びていく胴体に俺もびっくりだ。
そのまま俺が後ろに倒れると、ずるりと子犬が出てきた。
明らかに俺の身長ぐらいある胴の長さをしている。
「ばあちゃんハサミ取って!」
俺は急いでハサミを受け取ると、へその緒を切る。
明らかに長い体にタオルも足りないだろう。
「じいちゃん、タオルを持ってきて!」
「わかった!」
急いで祖父にタオルを頼んでいる間に、子犬の様子を見る。
「息はしているよな?」
耳を口元に近づけると息をしているのが聞こえてくる。
ただ、どこか苦しそうな表情をしていた。
胴体が伸び切っているのは、何か障がいを持ってきたのかもしれない。
「のびのびしてりゅよ」
ドリも生まれたばかりの子犬を心配しているのだろう。
それでも俺達の家族なのは変わらない。
「おい、大丈夫か?」
祖父がタオルを持ってくると、すぐに受け取り体に巻きつける。
「それにしても体が長い犬なんだな」
「ミニチュアダックスフンドみたいな犬種なのかな?」
タオルを巻いてもあまりの胴体の長さにタオルが足りない。
しかも、蛇みたいに胴体がとにかく柔らかい。
持ち上げると体がぶらぶらしている。
『ミャアー』
「うぉ、なっ……なんだ!?」
突然鳴いたと思ったら、体がどんどんと縮んでいく。
最近の犬は体の長さが調整できる機能でも付いているのだろうか。
気づいた時には少し胴体が長い程度に戻っていた。
「大丈夫なのか?」
『ミャアー』
苦しそうな表情もなく、大きな声で鳴いている。
「パパ……ネコしゃん?」
「いや、パパはネコじゃないぞ?」
「んーん、こっち!」
ドリは子犬を指さしていた。
確かに鳴き声は猫っぽいが見た目は完璧な犬だ。
『ミャ……ミャアー』
ほら、今も猫じゃないと否定している。
これは否定している鳴き声だよな?
『ウッ……』
そんなことをしていると再びチップスが力み出した。
「チップス大丈――」
――ポン!
音とともに何かがコロコロと転がっていく。
視線先にはもこもこの物体がいた。
「三匹目……?」
よく見るとへその緒が繋がっているようだ。
チップスが近づくと、今度は自分でへその緒を噛みちぎった。
きっと三匹目の子で間違いない。
チップスは一生懸命子どもを舐めているが、毛むくじゃらのどこか舐めにくそうだ。
「チップス大丈夫なのか?」
『ガウ!』
どうやらもう生まれて来ないのだろう。
チップスのお腹は別の犬のように凹んでいた。
無事に出産を終えて、一気に三匹も生まれた森田家に新しい家族が増えた。
「今年一年、畑の日記ちゃんねるもお世話になりました」
「なりまちた!」
「新しい家族も増えて、来年も愉快な家族をよろしくお願いします!」
「おねしゃす!」
「あっ、★評価もお願いしますね?」
「おねしゃーす!」
今年一年ありがとうございました。
たくさんの辛いこともありましたが、皆様に助けられた一年でした。
来年もドリちゃんをよろしくお願いします。
追伸
先週から40℃の高熱に数日やられ、復帰したら胃腸風邪になりました。
更新遅れて申し訳ありません。
皆様もお身体には気をつけて良い年をお過ごしください。