105.配信者、出産の手伝いをする
おまじないをかけ終えたドリは急いで戻ってきた。
画面には一生懸命出産に備えるチップスとポテトが映っている。
いつ生まれるかとポテトがソワソワしているのを、チップスが叩いて落ち着かせていた。
こうやって見ると母親は強いんだと実感する。
「そろそろ生まれるかな?」
「私達も準備した方が良いわね」
俺達は事前に用意していた、煮沸消毒したハサミとタオルを持って扉の前で見守る。
初産の時は母犬が緊張しているため、通常の出産通りにいかないことも多いと聞く。
生まれた後、母犬が自力で胎児のへその緒を噛み切り、胎盤を破る。
その後、体を舐めて刺激することで呼吸を促す。
その一連ができない場合もあり、それを手伝うのが俺達の役目だ。
「ポテチプ頑張れよ」
「がんば!」
俺達は二匹を陰ながら応援する。
『キャン!』
チップスはお尻をモゾモゾとさせて、何度もお尻を振っている。
そろそろ生まれる頃なんだろうか。
少しずつ体を起こし、体勢を変えると次第に力み出した。
何度も何度も地面を掘るように手を動かしていく。
くるくると回り、少し力んで地面を掘る。
同じ動きを繰り返して行くが、中々子どもが出てこないのだろう。
「ばあちゃんいくよ」
俺達はゆっくりと部屋の中に入る。
『チプ!』
そこには一緒に力んでいるポテトの姿があった。
彼もどうしたら良いのかわからないのだろう。
それでも生まれてくる我が子を迎えようと、必死に応援していた。
「ポテト手伝ってくれ」
『ワァオ!?』
俺達が部屋に入ったことに気づいていなかったのだろう。
声をかけると驚いた顔をしていた。
ただ、いつものひょうきんな表情はどこかへ消えていた。
きっとチップスは難産になるのかもしれない。
そうなると俺達が手伝わないといけなくなる。
子犬が子宮の中で大きくなると、外陰部に引っかかることがある。
チップスはとにかくご飯をよく食べていた。
普通の犬とは違い、魔物だからと思っていたが単純に遅産だったのかもしれない。
すでに破水はしており、子犬が見えていた。
俺はタオルを持って少しずつ出てきている子犬を包み込む。
「チップスが力んだタイミングでゆっくり引っ張ってくれ」
『ワワワワォ……』
「お前が父親になるんだろ!」
戸惑っていた表情は自然と凛々しくなる。
『ウン!』
覚悟が決まったのだろう。
ポテトが俺の足元に来ると、一緒にタオルも持った。
「チップス頑張れよ!」
「ガンバ!」
『ガンバレ!』
俺達がみんなで応援をしていると、それに応えるようにチップスは大きく力んだ。
そのタイミングで少しずつ体が見えてきた。
ただ、子犬が大きいのだろう。
俺とポテトは軽く力を入れる。
「せーの!」
掛け声と一緒に少しだけ引っ張ると、勢いよく子犬が出てきた。
『ハァハァ……』
チップスは息を荒げながら、出てきた子犬のへその緒に噛み付く。
だが、チップスの体力もないのか中々噛みきれない。
「ばあちゃんハサミ!」
祖母は急いでハサミを俺に渡した。
ハサミを大きく広げてへその緒を間に入れる。
「あれ……切れない!?」
力を入れてもへその緒は切れなかった。
ハサミもちゃんと新しいものを用意しているため、切れないことはないだろう。
チップスの体力がないのではなく、単純にへその緒が強固に親子の関係を結んでいた。
「パパ!」
すぐさまドリは何かに気づいたのか、俺の元にやってきた。
俺の手に触れると、何かほわっと温かく感じる。
「いきゅよ!」
「ああ!」
俺とドリが力を入れると、スルリとハサミがへその緒を切っていく。
さっきまでの硬さはなんだったのか。
そう思うほど別のものを切っている感覚だ。
「ポテトはタオルで擦ってあげてくれ」
『ウン!』
ポテトに渡すと大事そうに生まれたばかりの子犬の背中を撫でていた。
ポテトに頼んだのには理由があった。
それはチップスが再び力み出したのだ。
何事もなく生まれてくれ。
俺はただただ願うばかりだ。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
犬の出産シーンどうやって表現すれば良いのか、動画を見ながら学んでいました笑
犬を飼ったこともないので、作者はポテト同様戸惑っていましたね_(:3 」∠)_