104.聖女、ダンジョンで推し活 ※聖奈視点
ダンジョンでネコを探していた私は推しの配信アラームが鳴り、休憩することにした。
少しずつ寒くなり、推しへのクリスマスプレゼントを探しにきていたのだ。
「んっ? ドリちゃんもパパさんもいない?」
立てかけたタブレットには誰も映ってない。
ただの部屋の様子だった。
「皆さん、こんにちは! チップスが出産しそうなので、監視のために生配信させて頂きます」
どうやらチップスの出産間近なんだろう。
画面の真ん中には毛布と何かソワソワしているチップスがいた。
そんなチップスをポテトは二足立ちで反復横跳びをしながら心配をしていた。
落ち着きがないのは夫であるポテトのようだ。
私達視聴者にもチップスの出産を見届けて欲しいというパパさんの気持ちについ微笑んでしまう。
私はいつものように録画ボタンを押して、映像として残す。
あとで私専用の切り抜き動画を作る予定だ。
それにミツメウルフの出産って、この業界ではあまり聞かないため、良い資料として今後も残る気がした。
「えっ、ドリちゃん……?」
突然、推しが現れると少し膝を曲げた。
それと同時に出てきたコメントに私は冷や汗が額から流れてきた。
森田直樹 最近
皆さんも一緒におまじないでチップスを応援してください。
▶︎返信する
「うええええ!」
私は記念にスクリーンショットを撮ると、急いでコメントを書き込む。
それは他の探索者も同じだ。
パパさんの本名を知っているのは、いつも近くにいる私達探索者やギルド関係者、幼馴染の家族達だけだ。
まさかコメントに本名で出てくるとは思いもしなかった。
オサレシェフ 最近
ははは、絶対あいつ今頃焦ってるぞ笑
▶︎返信する
必死にコメントを流して、画面上から見えなくなるように誤魔化す。
ただ、春樹さんだけは楽しそうにしていた。
そんな中、一人だけ下品な言葉を使う釜田クリニックの先生は、そのまま追放されていたが気にしないでおこう。
彼はちゃんと推しのために戦った。
共に戦った友に拍手は送りたいが、推しへの悪影響はすぐに取り除かないといけない。
私は問答無用で彼の追放依頼をした。
画面に映っているドリちゃんは大きく手を上げた。
「のびのびー!」
「のびのびー!」
私もそれに合わせておまじないをかける。
きっとこれで元気な犬が生まれてくるだろう。
そう思いながら、何回もおまじないをかけていると、突然畑の日記ちゃんねるファンクラブからたくさん連絡が来た。
ひょっとしたらさっきのコメント関係についてだろう。
ただ、肥料でも個人の名前までは知らない情報だ。
私がスマホで確認すると、驚くことが書かれていた。
「畑が荒らされてるって⁉︎」
こんな時に畑が荒らされているという連絡が入った。
私達肥料だけには、この間取り付けたばかりのパノラマカメラが見えるようになっている。
パパさんはそのことを知らないが、全て費用と管理費は肥料で賄っている。
ファンクラブへのファンサービスとドリちゃんの護衛を任されている私達には必要なことだ。
それにファンサービス自体はパパさんに止められていない。
何をやっても良いと聞いている。
だから、私や貴婦人、桜さんが野放しになっているのだ。
きっとこれも問題ない。
私はそう言い聞かせている。
「貴婦人さん、今どこにいますか?」
私は急いで貴婦人に連絡をした。
「私も今ダンジョンの中にいるのよ! 凡人は家で作業をしているらしいけど、パパさんが近くにいるから畑には行けないって……」
凡人が畑に行ったら怪しまれるし、カメラから畑を見ていることがバレてしまう。
あとは頼れる人は侍しかいない。
すぐに侍に電話をかけると、後ろで呼び出し音が鳴っていた。
「拙者、さっきからここにいるでござる」
「なっ⁉︎」
突然聞こえてきた声に急いで私は盾を構える。
この私が背後に人がいたことに気づかなかったとは……。
侍はスキルの影響で影が薄い。
とにかく影が薄いから、見た目を派手にしている。
それなのに以前よりも見つけにくくなっているのは、魔力が込められた野菜を食べているのが影響しているのだろうか。
ただ、ここに侍がいるってなると畑に行ける人が誰もいないってことだ。
「カマちゃんに連絡するのはダメでござるか?」
カマちゃんとは誰だろうか。
私が悩んでいると、肥料の中にいるある人物の名前を侍は指差していた。
「あー、先生なら元Sランク探索者だからどうにかなるわね!」
私は侍に頼んで急いで電話をかけてもらった。
「拙者でござる」
「くすん」
「拙者でござる」
「ぐすん、ぽよよーん」
スピーカーから聞こえる先生の声は少し悲しんでいた。
ただ、ぽよよーんとはなんだ。
そんな泣き方をする人を見たことがない。
「何で泣いているのでござるか?」
「みんなで、あたしを追放するからよ! このままじゃ、アカウント停止なっちゃうじゃないの!」
どうやらみんなに追放されたのが、悲しくて泣いているようだ。
ただ、それはあんな下品な言葉を書いたのが問題だ。
あれは完全に大人にしか見せてはいけないやつだ。
いや、大人の私でも未経験過ぎて衝撃が強かった。
「ここでパパさんに良いところを見せたら、アピールになるでござる!」
侍は一生懸命先生を説得していた。
「アピールしてもパパさん興味ないもん!」
「いや、畑を守ってくれる男……いや、お姉様はきっとパパさんは好きでござる」
「えっ……」
私はその言葉に少し胸が締め付けられた気がした。
久々に感じたこの気持ちは、森田家に住むようになって以来な気がする。
病院に行ってもわからなかった謎の病気が、再び発症するとは誰も思わないだろう。
「いやーん、今すぐ行ってくるわ! あたしに任せなさい!」
そう言って先生は電話を切った。
「聖女、これで……どうしたんでござるか?」
「いや、何もないです」
「顔がブサイクでござる」
――ドン!
「うっ……」
――ドドドドーン!
「ぐげっ……」
侍に盾で攻撃すると少し胸の苦しみが治った。
ひょっとしたら無意識にバーサーカーモードになっていたのだろう。
私は再び配信視聴を見届けることにした。
「ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。ほら、ドリも」
「ほちちょーらい!」
ドリは両手を振って配信を終えた。
ぜひ、可愛いドリちゃんにたくさんの★をプレゼントしてください!
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