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9.配信者、命を学ぶ

 ドリの服を買いに行くと家ではファッションショーのようになっていた。


 祖父母も手拍子をしながら楽しそうにドリのファッションショーを鑑賞していた。


「よし、畑に行こうか!」


 そして、今日は新しい服を着て畑に向かう。


 ドリは俺の前でくるりと回ると、新しく買ったオーバーオールを自慢するように見せている。


 お気に入りの服になったのか、他の服は気にせず、オーバーオールを朝から取り出して着替えていた。


 そこまで同じような服が着たかったのだろうか。


 昨日からずっとこの調子だ。


 今日は昨日買った花の種と新しい野菜を植える予定。キャベツやカブなどの根菜類を用意した。


 根菜類は土壌を緩め、有機物を供給するらしい。土壌の養分状態が悪くても育つことができるため、あまり良くない土でも作れる。


「パパ、うた!」


「石の歌だよな?」


 俺は大きく息を吸って歌い出す。


「大きな石がコロコロ」


「コロコロ」


「たくさんコロコロ」


「コロコロ」


 今日も石の歌を口ずさみながら畑に向かう。流石にこの間とは言わないが、野菜も少しずつ成長してきている。


 早速俺はスマホを準備して作業に取り掛かる。


 今日は初めてやった時と同じで石と雑草を取り除いて花や根菜類を植えていく。


 一度やった作業になると、前よりも時間は短くて済む。前回は説明できなかったことを、祖父にカメラの後ろから語ってもらいながら動画を配信する。


 祖父の知識は畑になると永遠に語ってくれるからな。俺は何も話さなくていいから楽だ。


「パパ!」


 ドリは何かを持ってきたのか手を出した。


「これはなに?」


 少し嫌な予感がした俺はドリに手を広げるように伝えると、そこには小さなミツバチがいた。


 すでに弱っているのか、刺す様子も特に見られない。


「もう活動を終えたミツバチなのかな」


 ミツバチの働き蜂の寿命は一カ月程度だと言われている。たくさんの蜜を集めたミツバチも役目を終えたのだろう。


「パパ……」


 きっとドリも死んじゃうことを理解しているのだろう。寂しそうにミツバチを胸の前に抱いていた。流石に俺はどうすることもできない。


「あっ、ちょっと待っててね」


 俺は急いで家に帰ると蜂蜜を持ってきた。亡くなるミツバチにお供えとして蜂蜜を用意したのだ。


「また生まれて来るようにってないないしようか」


 ドリは小さく頷いている。せっかくだからと、花壇を作る予定のところにミツバチと紙容器に入れた蜂蜜を置く。


「バイバイ?」


「そうだよ。命あるものはいつか死んじゃうからね」


「パパも?」


「んー、俺はまだまだ長生きはするかな?」


 ドリアードが何歳まで生きるのかはわからない。ただ、確実に言えることは俺よりも祖父母が先に亡くなってしまうだろう。


 その時が来たらドリはどう思うのだろうか。


 そんなことを考えていると、祖父も近づいてきた。


「ちゃんと別れを告げないといけないぞ」


 どこかその言葉が祖父自身に言っているように感じた。


 いつものようにダンジョン探索に出かけた両親。きっと、祖父は娘が帰って来なくなると思わなかっただろう。


 まだ、幼かった俺でも両親が帰って来なくて泣いた記憶がある。そんな祖父母は俺を目の前で泣くことはなかった。


 俺が泣き止むまでずっと頭を撫でてくれた記憶がある。


 いつも祖父母がいたからよかったが、きっと祖父も寂しい思いをしたのだろう。


 だから、認知症になった今も俺の母親である娘が帰って来るのを待っている気がする。


 今度は俺がドリを優しく撫でてあげる番だろう。


 薄らと涙を流すドリを優しく撫でる。


 俺達は再びミツバチが生まれて来ることを願うように、花壇の隙間に亡くなったミツバチを埋めた。


==================


名無しの凡人 1分前

今回の配信はダメだ……涙が止まらない

▶︎返信する


孤高の侍 1分前

拙者も両親に会いたくなってきた。母上は元気にしているのかな。

▶︎返信する


貴腐人様 1分前

早くパパを慰めてくれる相手は現れないかしら。

▶︎返信する


鉄壁の聖女 1分前

ドリちゃん大丈夫かな?

今度は仲良くできるミツバチくんが生まれて来ると良いね。

▶︎返信する


ハタケノカカシ 2分前

感動系チャンネルじゃん。俺探索者辞めようかな。

▶︎返信する


犬も歩けば電信柱に当たる 3分前

涙が止まらねーよ! 電信柱に行ってくる!

▶︎返信する


==================


 ミツバチを埋めた俺達はその後も種を植えて、いつものように三人でおまじないをかけることにした。


 さっきまでとは打って変わって違う雰囲気だ。


 いつまでもジメジメしていても仕方ないからな。


「よし、いくぞ!」


「のびのびー!」


「のびのびー!」


 俺の合図でドリからおまじないが始まる。なぜかこれをやると成長が早くなると感じていた。せっかくだからとスマホを持ってきた。


「動画を見ている人達も一緒にやりますか?」


 ただ変なおまじないをかける動画を見せても、流石につまらないだろう。ここは共有型動画配信をやってみようか。


「じゃあ、ドリお願いするね」


「うん!」


 ドリの声と共に一緒に体を伸ばしていく。


「のびのびー!」


「のびのびー!」


==================


ハタケノカカシ 最近

のびのび?

▶︎返信する


名無しの凡人 最近

のびのびー!

▶︎返信する


孤高の侍 最近

のびのび!

▶︎返信する


鉄壁の聖女 最近

のびのびー!

▶︎返信する


犬も歩けば電信柱に当たる 最近

のびのびー! うっ、脇腹が攣った!

▶︎返信する


貴腐人様 最近

のーびのび!

▶︎返信する


==================


 早く大きくなれとみんなの思いを野菜と花達にたくさん込めた。

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畑で迷子の幼女を保護したらドリアードだった。2〜野菜づくりと動画配信でスローライフを目指します〜

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