3.和也のある日の朝-和也の通っている大学-
全50話の予定です
前作を読まなくても内容は追い付けると思いますが、もし機会がありましたら前作も読んで頂けると幸いです
前作「ヒューマン 1 -繰り返される事件と繰り返す時間遡行-」
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日曜~木曜は1話ずつ、金曜と土曜は2話をアップ予定です
和也の通っているこの大学は、薬学部と応用生命科学部二つの学部がある。このうち彼が通っているのは薬学部である。
薬学部のカリキュラムだが、六年制の学部である。
一年目はいわゆる講義で一日を占められている。だが、入学して二年目になると、午前は一年のときと同じく講義を受けるのだが、午後は実習が入ってくる。そしてこの実習は一度でも欠席すると自動的に留年、というとてもハードなものなのだ。
一方、応用生命科学部は四年制の学部で、応用生命科学科と生命産業創造学科に分かれている。このうち、千歳が通うのは応用生命科学科である。
二人とも学部が違うので、当然だが和也のいる薬学部とはカリキュラムが違う。だが、二年目までは薬学部と共通する教科もあるので、時々彼とと一緒に講義を受ける事があるのだ。
ちなみに、千歳たちは一年目から実習が入ってきている。
そして、どちらの学部、学科にも言えるのだが、所定の年数で卒業する為にカリキュラムは目一杯に組まれている。
で、大学に続くこの道を、和也は今まさに全力で走っている、という現在に至る訳だ。
――にしても、ここ最近の眠れなさっぷりは何とかならならないもんかな。
和也には最近、大きな悩みがある。
それは[毎晩のように夢に悩まされる]というものだ。だが、一概に悪夢と呼ぶべきだろうか。
表現しとては例えるなら、そう[眠っているはずなのに別の場所で覚醒して生活している]と言ったところか。
和也には小中学校の記憶の一部がない。それは、ある事件がきっかけでなくしてしまったのだ。だが、残っている記憶手繰ると小学校時代や中学時代だったり、高校時代や大学に入って直ぐの時期だったりとさまざまである。
[夢]と呼ぶにしてはあまりにも意識がちゃんとしていて、相手の反応もどこもおかしくないのである。
最初は、余りにもリアルすぎて、自分が[夢を見ている]とは気がつかなかった。しかし、起きてからあとになって冷静に考えると[夢]の中で体験した記憶と、今まで体験したそれが置き換わろうとしているのだ。その光景は、今まで和也が体験したものと合致するものもあれば、全く違う内容のものも含まれていた。
だが、困った事に和也本人、今はまだ記憶なのか、それともこれが夢なのかの判別は付いてはいるが、実際のところどちらが本来の記憶なのかだんだんあやふやになって来ているのも事実なのだ。
そう、例えて言うなら[夢の中でその断片的な瞬間の人生をやり直している]と表現したほうが近いのかもしれない。そこで和也は、彼をとりまく人たちと夢を見ている間、日常生活を送り直しているのだ。
そして、夢というのは大抵、眠りから覚めて時間が経つにしたがって忘れていくものだが、彼のそれははっきりと、例えば、高校生だった頃の寒い冬に手に持ったしるこの、缶の色も暖かさも味も、そして一緒にいた千歳との話の内容やその笑顔までも、覚醒してから一日経とうが二日経とうが鮮明に記憶しているのだ。
そんな事がここのところ毎晩のように続いている。なので、元々朝の弱い和也だが、余計に朝スッキリと目覚める事が出来ないでいた。
午前の講義のほうは、まだ友人に頼んで代返してもらっているが、実習となるとこれがそうは行かない。今日がたまたま生徒に優しい、山野辺教授の物理実習だからよかったものの[他の教授だったら]と思うと和也は背筋が凍る思いがした。
――た、助かりました、教授。直ぐに向かいますから。
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