2.ある男のある日の朝-結構頻度は高かったりする-
全50話の予定です
前作を読まなくても内容は追い付けると思いますが、もし機会がありましたら前作も読んで頂けると幸いです
前作「ヒューマン 1 -繰り返される事件と繰り返す時間遡行-」
https://ncode.syosetu.com/n2996hx/
日曜~木曜は1話ずつ、金曜と土曜は2話をアップ予定です
「はっ、はっ、はっ」
とある大学に続くこの道を、息を切らしながら走る一人の男がいる。
もう五月になり、寒いと感じる日がなくなったこの季節、彼は額に汗をにじませながらひたすら走っている。
時間は、といえば昼も過ぎて午後も午後、社会人にしてみればそろそろ昼休みを切り上げて仕事を始めるか、学生であるならば午後の講義か、実習が始まろうとしているこの時間、その男は一心不乱に走っている。
多分、その外見からして寝起きなのだろう。髪の毛には寝癖がついているし、服のボタンも二つほど外れている。手荷物は、といえば何とか収まっているが、入れ方の問題だろうか、肩掛けのカバンが明らかに膨らんでいる。おそらくは昨日使っていたものをそのまま入れっぱなしにして、今日使うであろうものを慌てて突っ込んできた、といったところか。
男の名は上田和也という、この先にある大学の二年生だ。元々朝が弱い彼だが、今は朝、とはとても言えないくらい遅い時間である。
――今日のは本当にヤバイ。普段から[学校は朝九時始まりにしよう]とか言ってるが、流石にこれはヤバイ。
和也は一生懸命足を動かし、大学に向かう。が、日ごろの運動不足のせいか、すでに息が上がっている。
「誰か起こしてくれたっていいじゃん、千歳ー」
走りながら独りごちた。
和也には天野千歳という、同じ高校からこの学校に進学してきた彼女がいる。同棲などはまだしていないが相思相愛、付き合っている仲の二人である。そして、これはあとで知る事になるのだが、彼女からの目覚ましの電話が午前中から何回もかかっていたのにも関わらず彼は起きなかった、いや、起きる事が出来なかったのだ。
そんな和也が一心不乱に学校を目指している、ちょっと前の話。
和也が必死で学校に向かう少し前。彼はぐっすり眠っていた。
そこに、
「ピリリ、ピリリ」
携帯電話が鳴る。
――……。
「ピリリ、ピリリ」
「んだよー、人がやっと寝入りについたってのにぃ」
和也は手探りで電話を探すが、なかなか見つからない。
――急いでる探し物ってだいたいそんなもんだよな。
それでも寝ぼけまなこで手探りでの捜索を続けるが、埒があかないと諦めたのか、ようやく上体を起こして、枕元で鳴っているであろうそれを探す。
と、すぐにそれは見つかり、和也は[やっぱり]と悪態をつきながら、
「もしもし」
やっと電話に出るが、相手からの反応はない。
「んだよー、誰?」
それには相手は名乗らず、
「上田くーん、今何時かな?」
と、声をかけてきたのだ。
「何時って……えっ!?」
あわてて枕元にある目覚まし時計に目をやる。本当なら携帯を持っていない左手で時計を引っつかみたいところではあるが、高校生時代に自身に降りかかったある事故が原因で、残念ながら彼の左手は手首から先がほとんど動かないのだ。
「おっ、気がついたようだねー。で、今の時間が分かったとして、きみはこれから何をするべきなのかな?」
声の主は、苦笑いをしながら、それでも優しい声で彼に語りかける。
「その声は、山之辺先生!? ってか、もしかして実習の時間……」
和也は驚いて相手に聞く。と
、
「おー、ようやく周りが見えてきたかな?」
「えっ、オレそんなに寝てた?」
相手に、というよりは自分に対して語りかける。
「きみがいつから寝ていたのかは分からないけど、少なくとも世の中では、今は[午後]って言うんだよ」
相手は怒るでもなくそう言って和也をたしなめる。
「すみません! すみません!! 今から直ぐにそちらに向かいます、向かいますから、その……」
相手に見える訳ではないが、思わず和也が何度も頭を下げると、
「大丈夫、今から来るなら欠席扱いにはしないから」
そう救いの手を差し伸べてくれたのだ。
「はいっ! いまっすぐ向かいますから!」
和也はあわてて支度を始める。
全50話の予定です
前作を読まなくても内容は追い付けると思いますが、もし機会がありましたら前作も読んで頂けると幸いです
前作「ヒューマン 1 -繰り返される事件と繰り返す時間遡行-」
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日曜~木曜は1話ずつ、金曜と土曜は2話をアップ予定です