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2. オジサマ紳士ゴツ・ゴウシュギと荷物持ちバイトのお話

~前回までのあらすじ~

 主人公のユノは『ただ単に無能』というどっからどう見ても無能なギフトを授かったために、当然のように両親に捨てられた。こっからどうやって生きてくんだいユノ!



 ――無能でした。


 はい。そうです、わたくしが無能です。

 それも『ただ単に無能』です。


 ぼくはこれからの一生を『ただ単に無能』で生きていく。

 努力して能力を得ることも無し、何かの気づきで才能が開花することも無い。

 『ただ単に無能』です。


 輝く未来を夢見ていました。きらめく才能を発揮して、周りからスゴイスゴイと持てはやされる。楽しいことが向こうからワンサカやってくるような。そんなハッピーなライフを想像しておりました。


 でも15才。ギフト鑑定。

 天から授かったぼくのギフト、『ただ単に無能』。

 泣いていい? 泣いていいやつだよね?

 もう泣いてるけど……


 んもう! 夢もへったくれもないよ! 確定、灰色の人生。

 何ものにもなれない。


 それだけじゃない。父上、母上、弟。もう家族じゃないんだ。

 勘当、追放、今すぐ出てけ、二度と顔を見せるな。

 なんで? ずっと一緒だったのに。ずっと家族だったのに……


 ちくしょッ。ギフト。ギフト。たったそれだけで。


 もう……どうやって生きてきゃいいんだよ……これから――




 雪が降り積もるなか。

 僕は馬車の荷台から投げ出された。まさに、道ばたに捨てられた。

 冷たい地面を這い、歯を食いしばって、こぶしを握りしめた。


「おぼえてろよ!」


 遠ざかる馬車に向かってそう叫んではみたものの、声は雪にかき消され届くことはない。虚しさだけが胸に残った。吹く風が頬に冷たく刺さって、積もった雪についた手のひらが熱を失ってゆく。

 地面に転がっていた石ころを投げつけようと、握ってはみたけども、やるせなくて途中でやめた。


 体から力が抜けて、僕は地面に仰向けになって倒れた。

 濁った空からはらはらと落ちてくる白い雪を眺めた。


 このままここで凍死してやろうかと思った。朝になって道ばたに人が死んでたらすごく迷惑だろう。へっ、ざまあみろだ。

 いや待て、積もった雪に隠れて見つけてもらえないんじゃないか。下手すると春まで見つからないんじゃ。そもそも死んだところで、命と引き換えにできるほどの迷惑にならない気がしてきたし。


 で、やっぱ寒いし。


 おー寒っ。あったかいとこ行こ。


 よいしょと立ち上がって、雪道を行く。

 さて、どこへ行こうか。というかここはどこなんだ。

 建物は見当たらない、広い草原の中だが、あそこに道が見える。きっと屋敷からできるだけ遠いところに捨てたのだろう。

 とにかく人がいそうなところを探そう。誰かに助けてもらわないと生きていける気がしない。とにかく歩いて行こう。


 そうだ。こんな時は都合の良いことを考えよう。苦しい時こそ都合の良いシンキングが大事なんだよ。

 都合の良いこと、都合の良いこと……

 どこからともなく犬がでてきて、ここを掘れってワンワン鳴いて、掘ったら秘密の鍵が出てきて、それは秘密のドアに使うんだけど、ドアの場所が分からなくて、でもたまたま近くにいたお姉さんが「あたいん家に来なよ」とか言ってきて、でもう、鍵のことなんかどうでもよくなって……


 はあ。なわけないよなぁ。

 思えば思うほど絶望的状況だよ。泣いていい? 泣いてるよ?





「ちょっと君」


 ん? 誰かの声がする。


「ちょっと君、待ちなさい。聞こえてるのかい?」


 後ろを振り返ると男の人がいた。スマートな背広に蝶ネクタイをしめた灰色の髪のオジサマ紳士だった。ぼくと目が合うと、シルクハットを上げて挨拶、そしてステッキをくるりと一回転させる。なんともエレガントな人だ。

 どうしてこんなエレガントなオジサマ紳士がこんな人里離れた所にいるんだろう。


「君、なかなか困っているようだね。私が助けてあげようかな?」

「え。ていうか誰?」


「これはこれは、自己紹介が遅れたようだね。私の名前はゴツ・ゴウシュギといいます。君のようなとてつもなく困った人を助ける頼もしい紳士さ」

「ゴツ・ゴウシュギ? さん?」


 間違いなく変な人だとは思うが、紳士であることも間違いなさそうだ。それにしても聞き馴染みのない名前だなあ。


「そう。ゴウシュギと呼んでくれたまえ」

「はぁ……、ゴウシュギさん……。で、どうしてこんな所に?」


「チッチッチ……紳士に対してそういう野暮なことは聞かないことだ。私が居ればだいたいウマイこといくって事さ。というより、なんかウマくいったと思ったら、近くに私がいると思った方がいい。そういうものなのさ。ははっ」

「はぁ。よく分かんないですが。よろしくお願いします。あの、だったら、さっそく助けてほしいんですけど」


 間違いなく変な人だとは思うが、今のぼくの状況では頼れる人には頼るしかない。


「ふむ。助けると言っても具体的に何かをするわけではないんだがね。私が現れたら何かしらウマくいくってことだから。まあ気にせずそのまま旅をすると良い」

「はぁ……」


 ゴウシュギさんは「では」と言って遠ざかって行った。しばらく目で追っていると、周囲をぶらぶら散策しながら鼻歌を歌い出した。たまにスキップもする。

 なんかよく分からないけど。良い人だと思う、紳士っぽいし。だいぶ、変わった人だけど。まあ、この辺に人がいると知れただけでもよかった。


 ぼくはゴウシュギさんのアドバイスに従ってそのまま旅をしようと歩き出した。少しは元気をもらったことは確かなようだ。





 しばらく歩くと、何やら大声で言い争いをしている集団が見えた。あまり口にしたくない言葉で罵り合ったあと、その内の一人がこれまでで最高に汚い言葉を吐き捨てると、走って逃げていってしまった。

 残ったメンバー同士で散々に彼の悪口を言い合ったあと、その内の一人がこう言ってなげいた。


「あー、どこかに荷物持ちのバイトしてくれそうな奴はいねえかなー。身寄りのないクソ暇そうなクソ貧乏人がいっそ走ってこっちに来ねえかなー」


 ぼくは彼らのもとへと走って行った。


「あのー! 身寄りのないクソ暇そうなクソ貧乏人がここにいまーす!」





 冒険者というのは何かと持ち物が多くなりがちだ。食料をはじめ、支援アイテムなど。さらには冒険先で入手したアイテムや素材なども持ち帰らなければならない。冒険者パーティのメンバー達はとっさに行動できるようになるべく最小限の荷物しかもたないようにするものだ。

 だから冒険者パーティには荷物持ちの需要があるのだ。


 ぼくは偶然出会ったAランクパーティに荷物持ちのバイトとして雇ってもらうことができた。

 モンスターとの戦闘などはメインメンバーがするから、荷物持ちはとにかく荷物を持ってメンバーについていけばいい。疲れるし、危険もあるだろうけど、今の僕にはもってこいのバイトだ。


 パーティのメンバーは態度の大きい連中ばかりで、ちょっとムッとすることもあるけど。仕事だ仕事……。

 斧使いと回復術師が目の前でイチャイチャしてて、イライラするけど。仕事だ仕事……。


 ただ歩くだけというのは、いろいろと考えてしまうもので、それが精神衛生によろしくないようだ。無心になろう。

 何も考えない、何も考えない……


「ゴブリンだ! 陣形をとれ!」


 リーダーの緊迫した声が飛んだ。

 ぼくは意識を戻して、前方を見た。ゴブリン、5体もいた。腕を前脚代わりにし、四つん這いで地を駆って迫ってくる。

 灰色のくすんだ体表が邪気を放っていた。鋭い牙からよだれが垂れ落ちる。ギラつく瞳孔がぼくをとらえていた。


 ぼくは恐ろしさに、足から力が抜け、お尻から地面に倒れる。動くことすらできなかった。


 迫り来る5体のゴブリン。4人のパーティーメンバーは毅然と立ち向かった。

 リーダーの剣士が前に出てゴブリンに突進していく。そして一閃。下段から斜めに振り上げた。

 ギャッと甲高い悲鳴。1体のゴブリンの体が上下に真っ二つに割れた。ドサッと地に落ちる二つに肉塊。

 それを見た4体のゴブリン達は足をとめ剣士を睨み威嚇する。そして4体で剣士を囲んだ。


「ファイヤバレッド!」


 魔術師がそう叫ぶと、魔術師の振りかざした手の先から炎の弾丸が飛び出す。命中、ゴブリンの眉間へ。立て続けに4発。ぐらつく4体のゴブリン。

 ゴブリン達が体勢を崩している間に、剣士がとどめを刺しに行く。


 ギャッ。ウグッ。グワッ。


 そして最後の1体だけは体勢を立て直し、二足で立って両手の長い爪を前に出して構えた。

 剣士は3体を討った勢いそのままに最後の1体に迫り、今度は大きく飛び上がり、上段から縦一文字に、目一杯の力で振り下ろした。

 ドンと鈍い音が鳴った。


 着地した剣士は、後方に跳ねて距離をとる。勝利を悟ったように剣を鞘に納めると、目の前のゴブリンは左右に割れ、地面に崩れた――



 強い。

 冒険者の実戦を見たのは初めてだった。腕力、素早さ、正確性、どれも凡人に真似できるものでは無かった。魔法の実戦も初めてだった。遠距離から4体同時に攻撃。すごい技と精度だった。

 本当にみんなとっても、


 カッコよかった。



 剣士がこちらに戻ってくる。


「みんな無事かぁ」


 メンバーらはみな余裕のある声で剣士に答えた。メンバーの無事を確認すると、剣士は地面に尻もちをついたぼくを見つけ、


「荷物持ちも大丈夫かぁ?」

「は、はぃぃ……」


 ぼくは腰は抜かして立てないでいた。チビらなかっただけ褒めて欲しいものだ。


 剣士が「おっ」と言って、自分の体を確認するように見た。


「やりぃ。スキルが覚醒したようだぞ」


 スキルというのは、経験を積むと獲得する特別な能力のことだ。剣士はちょうど今の戦闘の経験で、スキルを獲得したようだ。こんなに強いのに、さらに強くなるってことだ。


「おお! これはレアなスキルだ!『アイテムボックス』を獲得したぞ!」


 それを聞いたメンバーが剣士を祝福する。


「それは良いスキルだわ! これで沢山アイテムを持ち込めるわね」

「よし、さっそく使ってみよう。おい、荷物持ち、荷物のひもをほどいてくれ」


 ぼくはまだ足に力が入らなくて立ち上がれずにいたが、膝で立って、言われた通りに荷物をほどいた。荷物の中身を取り出して剣士へと渡していく。

『アイテムボックス』というのは、とても便利なスキルだ。剣士の持っていた荷袋にアイテムを入れてもちっとも荷袋が膨らまないのだ。いったいどれほど入るのだろうか。


「すごいぜ。荷物が全部入っちまったぞ。こりゃあ便利だ。はは」

「すごいわ。荷物持ち要らずね」


 ん? 今なんて言った?

 パーティのメンバー達が何やら目で合図を送り合うと、寄り合って小声で話を始めた。

 とてもイヤな予感がする。


 話を終えると剣士がぼくへと歩み寄ってくる。

 そして冷たい目。それは仲間へと向ける目ではなかった。

 トラウマがうずくのを感じる。いや、もう確信してる。


「追放だ。今すぐこのパーティから出て行ってくれ」


 えっと……それ2回目なんですけど。




 ・・・



 こうしてぼくはAランクパーティを追い出された。

『ただ単に無能』というギフトとほんの少しのバイト代だけを持たされて。いや何も持っていないに等しい。お金も、頼る人も、才能も、何もない中、ぼくは一人になった。


 ヒドくない? ヒドいよね? 泣いていい?


 もう泣いてるけど。



(つづく)



読んでくれてありがとう。

ごめんなさい、またクライイングエンドになりました。次こそスマイリングエンドです。本当です。恋の予感の回です。こうご期待なのです。

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