訪問者
里と天の国は実質上われおり一般の里の住民は天の国について知りません。
天の国の住人は基本的に許された人しか住めず、そのほかは里にて生活します。
天の国の力(魔力)がきちんと活用できていれば里の恵みを支え、逆に活用できていない場合には里に天災が起こります。
沙羅がばあやの手を借りながら身なりを整えて本堂に入ってから間もなく、二人の客人は山の鳥居の方から現れたた。
あれは天の国に繋がっている鳥居だ。
神社に坊様とは珍しなぁと沙羅は思う。
二人とも寺の坊様のような黒い服を着て、一人は明日背が高いし里のものとは明らかに違う風貌で、何よりも驚いたのは目の色が緑色なのだ。
先程巫女舞いを披露したのだが、その際自分を見つめるその目に驚いた。
トントーン カンカン トトトットン
トントーン
沙羅の頭の中では天の国の音色が続いている。
簡単な挨拶を終え、大人たちの話が続いている。
「五つとは、また年齢を下げたものですね。私らの時は七つからだったと記憶しております。」
じじの声だ。
「それでは遅いということがわかったのです。舞の稽古を三つから始めたように、幼い時より始めると、私たち奪われた里で生まれたものでも、口や耳がかの言葉を受け入れられ可能性があるのです。今回は対象の子供たちの素質を推し測るために、中央よりバリウストさんをお招きして、一軒一軒回っているところなのです。」
背が低い方の客人の声だ。
全くもって、じじたち大人の話はよくわからない。
背の高い客人はそんな会話を聞いているのかいないのか
緑の目でじっと沙羅を観察している。
奪われた里とは何のことだろうか。
バリウストさんとは、なんと珍妙ななまえだろうか。
沙羅は視線を感じながらもそんなことを思っていた。
トントーン カンカン トトトットン
沙羅はひさしぶりに着せてもらった白に赤い袴の巫女装束の手元に視線を落として、大人たちの会話を聞いていた。
「£⊃▽?」
背の高い方の男が発した言葉である。
沙羅は初めて聞くその音にハッとして顔をあげる。
その瞬間、頭の中の天の国の音色も途絶える。
どうやら話しかけられたらしい。
緑の眼が期待したように沙羅を見ている。
「£⊃▽?」
沙羅がその言葉を咄嗟のことに繰り返していた。
きき慣れない音や面白い響きが混ざり合っている言葉だ。
口の中が少しむずむずした感じがする。
「なんと!もう学びを初めていたのですか?」
背の低い方が驚いて身を乗り出す。
「いや、そんなことは。第一私も奪われた民です。下手に教えると後の学習に影響が出るからという教えを守ってきました。」
じじはあせったようなうわずった声でこたえる。
「やはり天行きの年を下げたのは正しかったということなのでしょう。」
納得したかのように背の低い客人はうなずきながらそういった。
黒い服を着た二人は目を合わせて頷きあう。
そして背の低い客人は改まったように沙羅に向かって一礼をして、隣の緑の目の客人を紹介した。
「沙羅、こちらはバリウスト先生です。あなたが天の国の学校に通うために、いろいろ教えてくださる。ごあいさつを。」
沙羅は何が起きたのか理解できていなかったが
反射的に深々と頭を下げた。
ピー ヒョロロ トコトントン
ズズーン チャカチャッカ ピー ピー ドンドンドン
沙羅はただ衝撃をうけたような
突然氷水をかぶったような、頭をぐわんぐわん回されたような
とにかく分けが分からなくなってしまった。
「里ので暮らすことを決められたこととは言え、里の言葉は奪われすぎました。おかげでせっかくある高い力も扱うことができず、天の国の実りが落ちてきています。私ども、天の管理者の籍を担う物も、何とか伝承されてきている舞をささげ、努力をしているのですが、結局数年に一度は里の天災としてその不足さが証明されてしまっています。
何より50年は《けんどべっくほーりすてく学校》に生徒を送り出すこともできていない始末です。ここで人材を育てることは私たち天の国を知るものにとっては急務であることがお分かりになるでしょう。・・・・・」
それからは大人たちがいろいろと話していた。
何かとんでもないことが起きたらしい。
沙羅は混乱しながらも、それだけははっきりしていた。
かつて大きな罪を犯したため、里の言葉からたくさんの音を奪われました。
おかげで魔力を使うために必要な言語を習得できない、実りを豊かにするための魔法を仕えない、魔法を学ぶために行く学校の学びにもついていけないという状況が続いていました。
何とか里の大地を魔力で満たすため、舞による奉納により補ってきたが、それでも魔力が十分にいきわたることはなく、年々災害が起こってしまっていた。