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その日の謁見は沈鬱な空気のまま終わった。
それどころか直前まで俺に対して柔和な表情だった王はあからさまに不機嫌になり。
周囲の人々からはわざと聞こえる様に『無能』だのなんだのと陰口をたたかれた。
「無能なのは確かだけど呼び出したのはお前らだろうに」
俺にしてみれば一方的に異世界に召喚され、無能のレッテルを貼られ。
退出間際には壇上の王様から『役立たずは要らん』とまで吐き捨てるように言われた。
「役立たずで悪かったな」
思わずそう言い返しそうになるのをぐっと堪え謁見の間を後にしたが。
その後に部屋まで俺を案内してくれたメイドも、あからさまに嫌々ながらといった空気を出していて心底この国が嫌になってしまった。
「俺が一体何をしたって言うんだよ」
一人、宛がわれた部屋で毒づきながら、すっかり冷たくなっていたコンビニ弁当をかっ込む。
そんな最悪な一日を俺はベッドに横になりながら回想する。
「朝早くに出社してサービス残業で夜遅くまで仕事して……そこまではいつもと変わらなかったんだよな」
思えばこんな最悪な気分になった原因を作ったのはあの占い師だ。
あの時アイツの声に立ち止まり冴えしなければ……。
「いや。どっちにしろ俺は召喚されていたか」
勇者召喚の仕組みはどんなものかわからない。
だけどあそこで立ち止まらなくても変わりはしなかっただろうことはなんとなくわかる。
「むしろあの占い師は俺を助けようとしてくれていたんじゃないか?」
俺の異世界召喚は既に決定事項で。
あの時占い師は俺の運命の先に光を見たと言っていた。
そして光の先には途方も無い出来事が待ち受けているとも。
それがこの世界のことだろうことは間違いない。
だとするとあの占い師の力は本物だということだ。
「ということはもしかして」
俺は胸ポケットを探って、一本の小枝を取り出す。
それはあの時占い師に無理矢理押し売りされたものである。
「この枝が俺を幸せに導くっていうのも案外本当なのか?」
俺は寝っ転がりながら指先で小枝をくるくる回す。
枝の先に付いた小さな葉は、結構な勢いで回転する枝からも外れる気配は無い。
「いったいこの枝はなんなんだろうな」
そうして何の変哲も無い小枝を俺はじっと見つめていると――
「わっ!」
突然俺の目の前に半透明の板のようなものが浮かび上がった。