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本日中に最終話まで投稿予定ですので評価などよろしくおねがいします。
「えっと……あなたがあの?」
今俺たちの目の前に一人の青年が所在なさげに立っている。
彼がこの開拓村を訪れたのは昼過ぎのこと。
最初はいつものように王国を追放された人がやってきたのだと思ったのだが。
「あのというのはどのかはわかりませんが、たぶんその勇者クェンジで間違いないです」
青年は自らを『勇者クェンジ』と名乗り、この村の代表に会いたいと告げたのである。
見張りのケイビーからそのことを聞いた俺たちは、早速クェンジを村の集会所と化している教会へ案内した。
「失礼ですがクェンジさんって日本人ですよね?」
俺と同じく黒髪黒目の青年は、どこからどう見ても平たい顔族である日本人にしか見えない。
なので俺は思いきってそう尋ねてみた。
「ああ、やっぱりあなたもそうなんですね」
「そうです。勇者召喚とやらで呼び出されちゃいまして」
久々に合う同郷の人間に俺もクェンジの顔もほころぶ。
「しかしクェンジって名前だからてっきり外国の人かと思ってましたよ」
「ですよね。本当はケンジなんだけど、最初に名乗ったときに焦って噛んじゃって……」
訂正する暇も無く一気にクェンジの名が広まってしまって今更修正もできず、諦めてしまったと彼は笑う。
「じゃあケンジさんって呼んだ方が?」
「あ、呼び捨てでかまいませんよ。リュウジさんの方が年上でしょうし」
ケンジは19歳。
18歳の時に大学の入学式の最中に突然召喚されたという。
「最初は帰りたくて仕方が無かったんですよ。だってせっかく頑張って受かった大学に通えるって矢先でしたからね」
しかし彼は当時魔王軍との最前線で多大な被害を受けていた北方国家ノーザの現状を目の当たりにして戦おうことを決心したという。
「こういう異世界で戦うってのにも憧れてた時期もあったんで」
彼は俺と違って幾つものチート能力を授かっていた。
身体能力が通常の百倍になるスキル。
膨大な魔力量。
など、全部で十種類の能力を授かったそうだ。
「不公平すぎる……」
一方の俺は言語翻訳ただ一つ。
ミストルティンがなければ今頃はオークの腹の中だったろう。
とにかくケンジはその有り余るチート能力によってあっという間に魔王を倒してしまった。
俺は少しだけ魔王に同情しながら話の続きに耳を傾け。
「それで元の世界に帰ることになったんですけど――」
「ちょっとまったー!!」
「な、なんですか突然」
ケンジの口から出た聞き捨てならない言葉に俺は思わず大声を上げてしまったのだった。
次話は12時ごろ投稿予定
 




