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「そんなことよりリュウ! サツマイモでまたお菓子作って!」
「あまーいお菓子をリュウ兄ちゃんが付く手くれるってリリ姉ちゃんから聞いたよ!」
「そういえば前に作ってやったな」
サツマイモを見つけて持ち帰ったあと、俺はせっかくだからとリリエールのために甘いおやつを作ろうと考えた。
といってもその頃はまだ砂糖になりそうなものは見つけていなかったので純粋にサツマイモの甘みだけで作れるものを作ることにした。
そして思いついたのがサツマイモチップスであった。
ちょうどオークの脂身で作った油もかなり余っていたし、甘みを増すための塩が少しあれば簡単に作ることが出来るからである。
「パリパリってして美味しいんだよ」
「ボクも食べてみたい!」
「わかったわかった。でもアレを作るには準備もいるから明日でいいか?」
二人は俺のその返答にあからさまに不満そうな表情を浮かべる。
「油を用意しなきゃいけないし、せっかく油を作るなら他の料理も同時に作らないともったいないからさ」
俺はそう言いながら明日のレシピを考える。
昨日狩ったイノシシの肉を使ったとんかつなんてどうだろう。
本物のとんかつのようには行かないだろうけど一応パン粉も用意出来るようになったし試してみるのもいいかもしれない。
「ソースも欲しいけど、流石に無い物ねだり過ぎるな」
醤油の作り方は大体想像出来るがソースの作り方は大体の人は知らないだろう。
もちろん俺も知らない。
たしかいろんな野菜を使ってるのだけは知っているけどそれだけだ。
「わかった。それじゃあ明日ね。約束だよリュウ」
「ああ、約束だ」
「ボク、いっぱいサツマイモ採っておくね!」
「きちんと育ったヤツだけにしてくれよな。そうしないとジータさんに怒られちゃうぞ」
俺はそう言って二人と別れるとジータさんに二人のことをよろしくとだけ告げて教会へ向かう。
教会は開拓村の中心にある広場の横に立てられていた家を改造して作ったもので、もしもの時には緊急避難場所となるように頑丈な造りになっていた。
おかげで外から見ると教会と言うより要塞のようになってしまったが仕方が無い。
「おせぇぞリュウジ」
教会の扉を開いて中に入るなり、柄の悪いチンピラに声を掛けられた。
無精髭を生やした顎を片手で撫でながら不敵な笑みを浮かべた神官服の男はもちろんルリジオンである。
「村を見回ってたんですよ」
俺はそんな彼に向かってリリエールから受け取ったサツマイモを放り投げる。
「うおっ。なんだこれ」
「サツマイモですよ。リリエールが掘り出して俺にくれたんです」
「リリが? あいつまた泥だらけになって帰ってくるんじゃねぇだろうな?」
「お察しの通りになるでしょうね」
「風呂わかすのも大変なんだぞ……ったく」
口では文句を言いつつも楽しそうなルリジオンを見ながら俺は切れに並んだ長椅子の一つに腰掛ける。
教会の内部には彼の崇める神の像は無い。
代わりに正面に飾られているのは彼の手によって描かれたファロス教の紋章だ。
「それはそれとして……だ」
ルリジオンは俺を見ながら正面にある講義台と呼べば良いのか名称がよくわからないキリスト教で牧師が立つ台に移動する。
そして台の端を両手で掴みながら。
「話ってなんだ? 悩み事なら懺悔室で聞いてやるぞ」
そう聞いてきた。
「懺悔室なんてこの教会には作ってないでしょ」
「しゃーねぇな。だったらここで聞いてやるよ」
お互い苦笑を浮かべながら軽い言葉を交わす。
「そろそろ聞いてもいいかなと思って」
「ほう」
そして壇上のルリジオンの目を見返しながらずっと聞きたかったことを口にした。
「リリエールとあなたがこんな所に隠れ住んでいた理由。教えてくれますか?」




