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オーク家族の襲来から半年が経った。
俺もすっかり開拓村での生活にも慣れ、ルリジオンからこの世界のことを色々学ばせて貰った。
昼間は周辺の森での狩りや最終、そして開拓村の建物の修繕。
夕食後にルリジオン先生による授業が行われる。
昼間の作業は俺――というよりミストルティンのおかげでルリジオンとリリエールだけの頃よりかなり効率が上がったおかげで食卓に並ぶ食材も豊富になった。
ミストルティンの『鑑定』があるおかげで、今まで食べられるかどうかわからなかった山の幸の正体がわかるのも大きい。
料理についても一人暮らしでそれなりに料理経験のある俺が加わったのもあって、初日に食べたような簡単なポトフもどきだけでなく、焼き物や炒め物などレパートリーが増え続けている。
何よりありがたかったのは森の奥で岩塩を含んだ岩山が見つかったことと、元の世界で言う麦のような植物の群生地が見つかったことだ。
この半年の間に開拓村には五人ほどの移住者がやってきていた。
そのほとんどは俺と同じように王国によって追放されてきた王国民である。
彼ら彼女らは国王や貴族、ストルトスをはじめとした役人の無茶で横暴な指示に耐えきれず苦情を申し立てたり、指示通りのものを期間内に作れなかったなど聞くだけであきれかえるような理由で追放されたという。
しかし、そのおかげでこの開拓村に様々な職人が集まることになり、結果生活がかなり改善されることになったのは皮肉ではある。
「ブレドさん、麦刈ってきたよ」
「おうリュウジくん、ちょうど今パンが焼けた所だから喰ってくかい?」
「焼きたてですか。いただきます」
パンを作ってくれているのは王都でパン工房を営んでいたというブレドというおばちゃんだ。
彼女とその家族がこの開拓村へ俺と同じように転送魔方陣で飛ばされてきたのは半月ほど前になる。
「いただきます」
「店から酵母が持ってこられたら最高のパンを食べさせてあげられるんだけどねぇ」
麦と水、そして塩だけを使った原始的なパンの味は、最初中々慣れなかったものだ。
「いい匂いがすると思ったら」
「あらティールの爺さんじゃないか。例のものは出来たのかい?」
「ここにある材料だけでは大変だったがのう。ほれ」
ティールと呼ばれた老人は、片手に持っていたものをブレドに手渡す。
それは金属製のボウルだった。




