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「あちちっ。俺様の貴重な一張羅に穴が開いちまった」
「そんな悠長なこと言ってる場合ですか! 炸裂矢も無くなってどうするんです!」
神官服に火の粉で開いた小さな穴を気にしているルリジオンに俺は叫ぶように言う。
「どうするってお前、リリが残りを持って来てくれんだろ?」
「残りが有るんですか?」
「あたりめぇだろ……って言ってたら来たな。おーいリリ! こっちだ」
後ろを振り返ると、重そうに矢筒を抱えてヨタヨタと走ってくるリリエールの姿が見えた。
顔が青ざめているのは先ほどの爆発を見たからだろうか。
「はぁはぁ。ルリ、大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇよ。一張羅に穴が開いちまった」
きっとリリエールを心配させないためだろう。
ルリジオンはおどけた声音で小さく開いた穴を見せつけながらそう応える。
だがリリエールの顔に笑顔は戻らず俯いてしまう。
「ん? どうした?」
ルリジオンも不審に思ったのだろう。
腰を落としてリリエールの顔をのぞき込む。
「ルリ……これ見て……」
「矢がどうかしたのか?」
ルリジオンはリリエールの差し出した矢筒を受け取り、一本引き抜く。
そしてその鏃を見て声を詰まらせた。
「こ、こいつぁ……」
「……濡れてる」
ルリジオンの引き抜いた矢の先端。
炸薬が詰まっているはずのその部分は明らかに水に濡れたように変色している。
「リリ、一生懸命探したんだけどこれしか無かったの」
「リリが悪いんじゃねぇよ。きちんと管理してなかった俺様が悪いんだ」
ルリジオンはそう言ってリリエールの頭を軽く撫でると俺を振り返って真面目な表情で口を開く。
「リュウジ、こうなったら近接戦で仕留めるぞ。俺の剣を持ってくるからコピーしろ」
そう言い残して家に向かおうとするルリジオンを俺は呼び止める。
「ルリジオンさんはオークと戦った経験はあるんですか?」
「んなもんねぇよ。俺は戦士じゃねぇからな」
「だったら無駄死にするだけです」
俺の言葉にルリジオンはここに来て初めて見る怒りに満ちた表情で叫ぶ。
「無駄死にだと! 大体誰のせいでこんなことになってるとおもってんだ!」
「俺のせいです」
胸ぐらを掴まれ足が浮く。
こんな事態を引き起こしたのは俺のせいだ。
だからルリジオンやリリエールを死なせるわけには行かない。
「だからその前に試してみたいことがあるんです」
「試してみたいことだと?」
「はい。その矢をアドソープションさせてください」
弓と違って矢は消耗品だ。
それをアドソープション出来るかどうかはわからない。
だけどやらずに諦めるよりやってみるべきだろう。
「出来るのか?」
「わかりません」
ルリジオンは俺を下ろすと握りしめていた濡れた炸裂矢を目の前に突き出した。




