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「長瀬隆士……です」
「リュウジ殿か。此度は突然召喚してしまい申し訳ないと思っておる」
シェイム王は玉座に座ったままそう謝罪を口にする。
だが立ち上がることも頭を下げることも無い。
これは王だからなのか、この国の風習だからなのかはわからないが余り気分が良いものでは無い。
「それでは早速であるが、勇者殿には魔王討伐に向かって貰いたい」
「えっ」
未だに持っていたコンビニ弁当の入った袋がガサリと音を立てる。
よく考えるとそんなものを持ったまま一国の王様に対峙しているのはおかしな話だ。
だが、突然召喚されてそのまま戦争に送り込まれようとしている現状に比べれば些細なこと。
「ちょっとまってください。俺は喧嘩すらろくにしたことも無いんですよ!」
「それは真か?」
「当たり前じゃ無いですか。それに勇者だなんだと言われてるけど、俺はここに来る前に別に漫画やアニメみたいにチートスキルをくれる神様にも会ってないですからね!」
「漫画? アニメ? チートスキル? 勇者殿が仰っておられる意味がわからぬ」
元の世界で読んだ本や見たアニメでは召喚された人間には大抵チートスキルが与えられるものだ。
だけど俺はそんなものを貰った覚えも、神様みたいなのにも会っていない。
「……ストルトスよ。勇者殿の力はまだ鑑定しておらぬのか?」
「は、はい。やっと召喚に成功したことに喜ぶあまり忘れておりました。おい、鑑定球を今すぐ持ってくるのだ」
王に睨まれたストルトスが、慌てて部下らしき同じ魔道士っぽい服を着た者に指示を出す。
鑑定球という名前からすると、異世界ものでよく出てくるスキルとか能力がわかる魔道具なのだろうか。
正直言って戦争に駆り出されるのはまっぴらごめんだけど。
もしかして俺にもチートスキルがあるのかもしれないと内心少しワクワクしてしまう。
「準備出来ました」
元々用意はしてあったのだろう。
思ったよりも早くストルトスの部下が鑑定球らしきものが載った台車を転がして戻ってきた。
見かけは綺麗な水晶の玉で、俺はそれを見てこの世界に召喚される前に出会った占い師を思い出した。
思えばあの占い師が『俺の身に途方も無いことが起こる』と言っていたのは正しかったのだろう。
だとするとあの占い師は本物で、押し売りされた枝も――
「勇者様、こちらへ」
そこまで考え、胸ポケットに無理矢理押し込まれた枝を取り出そうと手を伸ばしかけた所でストルトスの声が掛かる。