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「ルリジオンさん」
「おう、早く渡せ」
櫓の外から目を離さずに急かすルリジオンの手に弓と矢筒を渡す。
弓の長さは一メートルほどだろうか。
いくつかの素材を組み合わせて作られているらしい複合弓で威力と射程は中程度。
アドソープションしたときに流れ込んできた情報から、ルリジオンの弓の腕前は達人とは言えないまでも、普通の狩人よりは上らしい。
「リュウジ、こいつをコピーしろ」
下ですでにアドソープションしたことを知らないルリジオンが弓を差し出す。
「もうしてありますよ。モードチェンジ」
俺はそう返事してミストルティンを複合弓に変形させた。
「おいおい。俺様の弓より綺麗になってやがんな」
たしかにミストルティンが変形した弓の姿は、ルリジオンが手にしているものより真新しい。
性能回復のスキルのおかげで弓が一番性能を発揮した時代の姿に戻っているせいだ。
「交換します?」
「いや、戦いの最中に元に戻られちゃあ困るからな。それに今の俺様にはこっちの方が合ってる」
ルリジオンはそう応えると矢筒から矢を一本引き出す。
矢筒の中には二十本ほどの矢が入っているが、これでオークたちを全滅できるとは思えない。
「こんな矢で効くんですかね?」
未だに壁を殴り続けているオークたちの体は、この程度の弓が刺さってもあまりダメージを与えられないように思える。
昨日の戦いで脇腹を刺したものの、致命傷にはほど遠く見えた。
「普通の矢だったらあんな化け物倒せる訳ねぇがな」
ルリジオンはそう応えながら矢をもう一本矢筒から取り出して俺に手渡す。
そしてその矢の先端を指し示して教えてくれた。
「この矢は魔物用の特別製でな。こんなこともあろうかと俺様が夜なべして作ったやつなんだよ」
たしかに普通、狩猟用の弓についている鏃は俺の知る限り先端が尖っていて、抜けないように返しがついているものが多い。
しかしルリジオンの作ったという矢はそう言うものとは全然違った。
「これ、刺さりませんよね?」
矢筒から抜いて先端を見るまでわからなかったが、魔物用というこの鏃は楕円形をしていたのである。
弓道とかの練習用やおもちゃならこういうのも有るだろう。
だけどどう考えてもコレであのオークどもを倒せるとは思えない。
「当たり前だろ。刺さっても彼奴らにゃ効かねぇよ。そいつは炸裂矢って言ってな、先端に炸薬が詰まってて相手にぶち当たると爆発する危ねぇ代モンよ」
「ば、爆弾ってことですか!?」
俺は思わず手から炸裂矢を取り落としかけ、慌てて両手でしっかりと掴み直す。
「おい馬鹿、殺す気か」
「す、すみません」
「ったく、こんな所で男と心中なんてごめんだぞ」
ルリジオンはそう苦笑いを浮かべながら矢をつがえ、子オークの中の一体に照準を合わせる。
そして俺に「お前は一番右を狙え」と指示を出した。




