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「あの魔石を返せば――」
「今更遅えよ。もう彼奴らは自分の家族を殺した犯人がここにいるってわかってんだから」
「そう……ですよね」
「もちろんお前にも戦って貰うからな」
ルリジオンはそう言って俺の胸を軽く拳で叩く。
そうだ、俺のせいでオーク達が襲ってきているのだから俺がなんとかしないといけない。
だけど……。
俺はあることに気がついてミストルティンのステータス画面を呼び出す。
『
ミストルティン
レベル:4
EXP:261 NEXT 350
形 態:デフォルト
モード:アドソープションモード
《アイテムスロット》
1:ノコギリ 2:金鎚(ランクA) 3:かんな
《スキル》
アドソープション・使用法理解・経験取得・性能回復・鑑定
』
わかってはいたけれどあの時俺がオークを倒すことが出来た短剣の名前はそこにはなく。
武器になりそうなのはノコギリと金鎚の二つだけだ。
しかしこの二つはあくまでも大工道具。
もちろん魔物と戦った経験はこの二つには全くあるわけがない。
となるとルリジオンの武器をアドソープションさせてもらうことになるだろう。
「ルリ! 持って来たよ!」
オークが壁を殴る強烈な音が鳴り響く中、音と音の間を狙って櫓の下からリリエールの声が聞こえた。
「来たか。おいリュウジ、急いでリリから弓と矢を貰ってきてくれ」
「はいっ」
俺は急いで階段を滑るように下ると下で待っていたリリエールから弓と矢筒を受け取る。
「ありがとうリリ」
「がんばってね」
「ああ、絶対にこの場所は守ってみせるよ」
俺はリリエールに心配掛けまいと不安を顔に出さない様に精一杯の笑顔で応える。
そして胸からミストルティンを取り出すと、早速受け取った弓に枝先を当て――
「アドソープション!」
オーク達と戦う力を得るための新たな力を吸収する。
『アドソープションするために必要なスロットが足りません。アイテムを入れ替えるスロットを選択してください』
しかし慌てていたせいで俺は必要な前準備を忘れていたことをミストルティンの声に指摘された。
俺は声と同時に表示されたステータス画面のアイテムスロット欄に目をむける。
『
ミストルティン
レベル:4
EXP:261 NEXT 350
形 態:デフォルト
モード:アドソープションモード
《アイテムスロット》
1:ノコギリ 2:金鎚(ランクA) 3:かんな
《スキル》
アドソープション・使用法理解・経験取得・性能回復・鑑定
』
現状戦闘に使えないのは『かんな』だろう。
俺は急いで『かんな』の文字を指先で触れて削除と念じた。
同時に頭の中にミストルティンの声がまた響く。
『アイテム:複合弓 アドソープション完了――EXPを80獲得――得られた知識と経験をマスターに転送いたします』
どうやらこの弓は複合弓という名前らしい。
とにかくこれで武器は手に入った。
「リュウジ! 早くしねぇと壁が持たねぇぞ!」
激しい音にかき消されそうになりながら、櫓の上からルリジオンの切羽詰まった様な声が届く。
「今行きます!」
俺はそう返事をすると矢筒を肩に掛け、弓を片手に梯子を登り始めた。




