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似合わないエプロン姿でひょっこりと顔を出したルリジオンに、俺はリュックを指しながら言う。
心なしかさっきより光が強くなっている気がする。
「――って、その中に何が入ってやがるんだ!」
「たしか路銀の入った袋とオークの素材だけだと思います」
「お前、オークから素材まで回収してたのか」
そういえばオークを倒した話はしたけど、その後素材を手に入れた話はしていなかったと気がつく。
「ええ、まぁ。剥ぎ取り方は短剣の経験でわかったんで」
「ということは……まさか魔石も持って来たんじゃねぇだろうな?」
「もしかして魔石は取っちゃだめだったんですか?」
「いや、大体の場合はダメじゃねぇけどよ……退け、中を見てみる」
ルリジオンは俺を横に押しのけるとリュックの蓋を開け中を覗き込んだ。
次の瞬間、彼の表情が苦虫をかみつぶした様なものに変った。
「こいつぁやべぇかもしれねぇな。紋が刻まれてやがる」
「紋?」
「ああ、見て見ろ」
ルリジオンはリュックに手を突っ込むと、ゆっくりと明滅を繰り返すオークの魔石を取り出した。
そしてその魔石をゆっくり回すと一点を指す。
「これが紋……」
「ああ、そうだ。こいつが刻み込まれてる魔石は取っちゃいけねぇ」
魔石の表面にうっすらと浮んでいるそれは、一見するといくつかの傷が走っているだけにしか見えない。
異世界人である俺にはわからないが、どうやらそれが紋というものらしい。
取り出したときには気がつかなかったが、光っているおかげでくっきりとそれが見えるようになっている。
「どうして取ってはいけないんですか?」
「紋の入った魔石ってのはな――」
ルリジオンが口に仕掛けた時。
突然外で何かがぶつかる様な激しい音が響く。
ルリジオンは「チッ。もう来やがったか」と舌打ちをすると魔石を持ったまま立ち上がって――
「こうやって同族を呼んじまうんだよ!」
焦燥感を溢れさせ、そう叫んだのだった。




