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「そいつは言えねぇな。俺たちはまださっき知り合ったばかりなんだぜ?」
そしてテーブルの上から短剣を持ち上げるとその切っ先を俺に向けてくるくると回しながら。
「もしかするとお前さんは遭難者のふりをして俺を殺しに来た暗殺者かもしれねぇし、逆に俺が盗賊でお前が眠ったところをグサリってするかもしれねぇんだぜ」
とさっきの籠もった目を俺に向けた。
だが――
「なんてな。お前さんが暗殺者とかじゃねぇってことは見てりゃわかるよ」
ルリジオンはそう笑って一瞬で元の飄々としたつかみ所の無い笑顔に戻すと「それでもまぁ詳しくは言えねぇこともある」と言いながらカップの中身を一気に飲み干した。
「すみません。昨日からいろんな事があったせいで焦ってたみたいです」
俺は素直に頭を下げて謝罪の言葉を口にした。
自分だってルリジオンを信じることが出来ずにミストルティンのことを秘密にしているというのに。
それを棚に上げて彼らの深い事情を聞こうとしたのだから怒られて当然だ。
「いいってことよ。でもまぁ兄ちゃんの話が本当だったとしたら王国の奴ら本格的に戦争をおっぱじめる気だったのかもしんねぇな」
「えっ。魔王に操られてる北方の国々とはもう戦争してるんですよね?」
王城でも魔王軍として魔王に操られた国々に攻められているという話をしていたし、さっきルリジオンも北方の国と戦争が始まった生でこの森の開発が中止になったと言っていたはずだ。
「ああ? いや、俺の知ってる限りは北方の国との戦争は小さな局地戦ばかりだったんだよ。だけど『勇者』なんていう強力な武器を手に入れようとしたってことは――」
「魔王と戦うためじゃないんですか?」
俺は頭に浮んだある疑念を振り払いたくて、ルリジオンにそう問い掛けた。
「……違うね」
しかしルリジオンからの返答は俺が望んだものとは逆の答えで。
「そもそも魔王なんてモノは、俺の知る限りとっくの昔に討伐されちまって今はもういないはずだからな」
続くそんな言葉は、俺が召喚されたその意味すら完全に崩壊させてしまったのだった。




