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突然なんの前触れも無くこの世界に召喚されたこと。
魔王を倒す勇者だと歓迎されたものの、鑑定球で無能と鑑定されたせいで無能勇者と呼ばれたこと。
そして元の世界に帰すと言われ騙されてこの村の近くへ転移させられたこと。
そこで魔物というものに初めて遭遇し、なんとか偶然倒せたはいいが、食べ物も何も無く彷徨いここを見つけたこと。
「良く無事だったな」
「ええ、まぁ。相手が小物だったんで」
ただし俺はミストルティンのことと、必然戦った相手がオークであることは誤魔化しておくことにした。
助けて貰って食事まで施されたが、それでも手の内全てをバラすのにはまだ抵抗がある。
なのでそれを教えるのは彼からも話を聞いてから決めようと考えた。
「こんなボロボロの短剣でよくもまぁ小物とはいえ魔物を倒せたもんだ」
説明のために手渡した短剣のままのミストルティンを眺めながらルリジオンは呆れた様な声を上げる。
実際一刺ししたらポッキリと折れてしまいそうな――実際に元の短剣は折れてしまったが――ボロボロの短剣で戦ったと言われたら驚くのは仕方が無い。
「運が良かったんですよ」
「だな。いくら小さくても魔物は油断できねぇ相手だ」
ルリジオンはそう言いながら机の上に短剣を置き「今度は俺が話す番だな」と両肘をテーブルについて、どこぞの指令のような格好でしゃべり出す。
「まず兄ちゃんが知りたいのはここがどこかってことだろ?」
「ええ、まぁ」
「ここはな。お前さんを召喚した国……バスラール王国の南側の国境から更に南下した場所だ」
俺を召喚したバスラール王国の南部には魔物が彷徨く広大な森が存在しているのだという。
かつて王国はその土地を自国の領土にするために何度か軍隊と共に開拓民を送り込み、森を切り開こうとした。
しかし森に住む魔物達は予想外に多く、手間取っている内に北方の国々との争いが始まってしまった。
おかげで軍は北方の戦いのために引き上げねばならず、南部の森の開発は中止。
残されたのは半ば強制的に移住させられた開拓民たちが作った村の残骸だけだったという。
「で、ここはその夢の跡の一つってわけだ」
「つまり開拓村跡地ってことですか……でもそんな所にどうしてルリジオンさんはリリと一緒に住んでいるんですか?」
彼の話では既に開拓民もいなくなって久しい場所のはず。
なのにそんな場所にリリエールの様な子供と二人で住んでいるのは何故なのか気になるのは当たり前のことだろう。
「ふぅ」
ルリジオンはゆっくりと冷めかけのコーヒーもどきを一口飲んでから表情を一変させた。




