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「ああ、それでかまわないよリリ。よろしく」
そう言ってリリエールと同じように椅子から立ち上がり、彼女と視線を合わせるようにしゃがむ。
「握手はわかるかな?」
俺が差し出した右手をリリエールは嬉しそうに微笑んで両手で握り返してくれた。
どうやらこの世界でも握手は通じるようだ。
「よろしくねリュウ」
その楽しそうな顔にはいっぺんの曇りも見えない。
だが先ほどの会話から想像するに彼女は自分の母親の顔を知らない。
そして名字があるということはルリジオンの言葉も併せて考えれば貴族の娘なのは間違いないだろう。
なのにこんな森の中の廃村のような場所にルリジオンという神官と二人暮らし。
はっきり言って異常だ。
この世界のことを俺はまだほとんど知らない。
もちろん日本で読んだ本やアニメの知識と照らし合わせれば、色々想像は出来る。
しかしそんな話をリリエールとする訳にもいかないだろう。
部外者の俺が首を突っ込んでいい話でもない。
なので今はこれ以上は彼女の事情には深入りしない方が良さそうだと俺は結論づけた。
「それでリュウはどうしてここに来たの?」
「どうしてって……」
俺が答えあぐねていると。
「飯を温め直してきてやったぞ。リリは皿とスプーン出してくれ」
キッチンから両手持ちの鍋を持ちながらひげ面の男がやってきた。
「はーい」
ルリジオンは湯気を立てる鍋を木製のテーブルの上に直に置くと俺の正面に座る。
そしてリリエールがボロボロの食器棚から持って来た木皿に鍋の中のものを注ぐと俺の前に差し出した。
「この辺りで取れたモンだけで作ったスープだけどよ、旨いと思うぜ」
「ルリのご飯は美味しいのよ!」
二人のそんな声が耳に入る間もなく、俺は「いただきます」と両手を合わせる。
そして木製の少し不格好なスプーンを手に取ると、美味しそうな匂いを漂わせるスープにそれを突っ込んだのだった。
*****
「さて、それじゃあ話をしよう」
具材に塩で味を付けただけのスープを食べ終えた俺の腹が落ち着いた頃。
ルリジオンが入れてくれたコーヒーのようなものを飲みながら薄暗い部屋の中で向き合う。
先ほどまで俺の近くではしゃいでいたリリエールは、既に隣りの部屋で眠ってしまったので二人きりだ。
「それじゃあ俺の話からでいいですか」
「ああ。手短に頼むぜ」
手元の温かなコーヒーカップを両手で包み込みながら俺は口を開いた。




