18
森の中の道は一直線ではなく、かなり曲がりくねっているために森を突っ切って灯りに向かった方が速いだろう。
だが森の中はほぼ真っ暗闇で、そんな中をふらついた足で進めば碌なことになりそうに無い。
「見え……た」
そうして更に20分ほど歩くと、やっと道の先にその灯りがはっきりと見える場所に出た。
二本の松明が照らしているのは丸太を縦に並べて作られた壁と、松明の間に取り付けられた扉で。
どうやらその場所は丸太壁で周囲を囲んだ小さな村のようだとわかった。
「助かった……のか」
俺は安堵のあまりしゃがみ込みそうになるのを必死に耐えて前に進む。
こんな所で座ってしまったらもう二度と立てなくなる。
「あとは村の人たちがいい人達であることを祈るしか無いな」
俺は幸せにしてくれるはずのミストルティンを強く握りしめながら扉までたどり着く。
そして残る力で扉を叩きながら「森で迷った旅人です! 助けてください!」と中に向けて叫んだ。
ドンドンドン。
既に疲れ切って力の入らない体にむち打って扉を叩く。
「お願いします! 助けてください!」
出せるだけの大声も既に掠れかけ、限界が近いのは自分でもわかる。
しかしそれでも目の前の扉が開く気配は無い。
「……だめ……か」
既に日も暮れたこんな時間、こんな場所にやって来た見知らぬ人間を中に入れる。
それは平和だった日本ですら相当リスキーなことだ。
ましてやそこら中に危険が転がっているこんな異世界では――
ガタン。
諦め座り込んでいた俺の耳に、扉の向こうで何かが動く音が聞こえた。
と、同時にゆっくりと扉が開いていく。
「あっ……」
そして扉はちょうど人一人が滑り込めそうな幅だけ開いて止まると、中からけだるそうな男の声がした。
「おい兄ちゃん。さっさと入りな」
俺はヨロヨロと立ち上がると扉にもたれかかる様にしながら開いた隙間にゆっくりと体を滑り込ませようとした。
とたん腕が思いっきり引っ張られる。
「うわっ」
そのまま壁の中に勢いよく転がると、背後から扉を閉める音が響く。
結構な勢いで倒れたせいで地面に顔を盛大にぶつけてしまった。
おかげで鼻血が一粒、二粒と地面に落ちる。
「いてて」
「わりいな兄ちゃん。でもよ、さっさと入れっつったのにノロノロしてるお前さんが悪いんだぜ」
俺は鼻を手で押さえながら仰向けになって声の主を見上げる。
うっすらとした星明かりの下で腰に手を当て俺を見下ろしているのは無精髭を生やした中年の男であった。




