17
森の中の一本道を歩く。
道があるということは、この先に人が住む場所があるということだ。
そう信じて歩き始めて体感時間で数時間。
空が赤く染まってきても、俺はまだどこにもたどり着けないでいた。
「このまま夜になったらどうしよう」
歩いている最中も見たこと無い動物たちと何度か出会った。
しかもそのうちいくつかの動物は凶暴で、俺はなんども戦う羽目になった。
おかげで俺は左右の茂みからいつ襲いかかられるかわからない恐怖を抱きながら道の真ん中を急ぎ足で歩いている。
「腹減った……」
神経を研ぎ澄まし、時に戦いながら進んで来た俺の腹の中はすでにすっからかん。
空腹の余り足下もおぼつかなくなってきていた。
そもそもあのコンビニ弁当以来何も食べてないのだから当たり前である。
「かといって生肉なんて食べたら多分死ぬだろうし……果物とか実がついてそうな木も道の側にはみあたんないしな」
人里でもあればそこで食事をする金は多分ある。
リュックの中に入っていた袋の中には銅貨らしきものがそれなりに詰め込まれていたからである。
「でもあれが本物の金かどうかはわかんないけど」
嫌がらせでボロボロの短剣を寄越したようなヤツが入れたものをそのまま信用出来るはずも無い。
といってもそれを確かめることも今は出来ないわけだが。
「はぁ……かなり暗くなってきたな」
俺は右手のミストルティンに目を落とす。
これ以上暗くなったらこいつを魔法灯に変化させないといけないかもしれない。
でもそうすると危険な動物やオークみたいな魔物が近寄ってくる可能性もある。
熊避けの鈴みたいに逆に近寄ってこなくなればいいんだが。
「せめて月明かりでもあれば」
空を見上げると、ポツポツと星が見える。
だがどこにも月らしきものは無い。
元々この世界には月のようなものは存在しないのか、はたまた季節的に見えないだけなのか。
それすらもわからないが、事実星明かりだけではもうすぐ歩くのも危険になるのは確実だ。
「ん?」
フラフラとした足取りで歩きながら見上げていた視線を前方に戻したときだった。
既に真っ暗になっていた森の奥に何かが見えた様な気がして、俺はその方向に目をこらす。
「あれは……灯りだよな」
森の木々の間から微かに見えたその炎の揺らめきは自然のものでは無さそうだ。
つまり、そこには確実に人がいるに違いない。
「これで炎の魔物とかだったらさすがに神様を恨むぞ」
俺はふらつく足を叱咤して最後の力を振り絞るように道を進んだ。




