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「それにしてもおかしなアイテムだな」
俺はミストルティンを変形させた短剣で、オークを解体しながら首を傾げる。
おかしいというのはミストルティンの経験値のことだ。
「普通は魔物を倒したら経験値が入るはずなのに、オークを倒しても全然経験値が入んなかったんだよな」
俺はミストルティンのステータスを表示してみる。
『
形 態:古びた短剣
モード:ソードモード
《機能》
錆が浮き、刃が欠けた短剣
』
「こっちじゃ無くて通常ステータスの方を見なきゃ」
俺は指先でステータスウインドウを突く。
そうすることで表示が切り替わることを俺は最初のアドソープションの時に学習していた。
『
ミストルティン
レベル:2
EXP:10 NEXT 20
形 態:古びた短剣
モード:ソードモード
《アイテムスロット》
1:魔法灯 2:古びた短剣
《スキル》
アドソープション・使用法理解・経験取得
』
やっぱり経験値は増えてない。
倒した後も今もレベルが上がった直後の10のままだ。
「でも《スキル》とかいう項目が増えてるな」
最初のアドソープションを使ったときに、吸収したアイテムの使い方が自動的に理解出来る様になった。
たぶんそれが『使用法理解』というスキルだろう。
「で、この『経験取得』ってのがレベルが上がって新しくゲットしたスキルってわけね」
俺は『経験取得』という表示を、先ほどステータスを切り替えたときの様に突く。
すると今度はその項目の説明文らしきものが出て来た。
「なになに。経験取得スキルは、吸収した道具に蓄積されていた経験を使用者に共有させることが出来るスキルです……か」
ミストルティンに短剣を吸収させてレベルアップした時。
俺の中に魔物と戦った経験が流れ込んできたのはこのスキルのおかげだったというわけだ。
「おかげでオークの解体も出来てるのは助かるな。ストルトスの爺はぶん殴りたいほど嫌いだけど、この短剣をくれたことだけは感謝したいね。でもまぁ次会ったら殴るけど」
それから俺は短剣の経験から得た知識に従ってオークから使えそうな部位だけを切り取った。
といっても持てる量には限度があるし、そもそも今俺がいる場所も、この先に町や村があるかすら不明だ。
だから必要最低限のものに厳選し無ければならない。
「とりあえず一番美味いらしい部位の肉と、高く売れるらしい牙と……」
あと持って行くのはオークの心臓付近から取り出したこぶし大で紫色の結晶体――魔石だ。
「この世界の魔物は魔石があるパターンなのね」
漫画喫茶とかで読んだ異世界ものでは大体出てくる謎物質。
それが『魔石』だ。
そしてほぼ百パーセント魔石というものは何かに役に立つものに描かれている。
「といってもこの世界で魔石が何の役に立つかとか売れるのかとかさっぱりわかんないけど、持って行って損は無いだろ」
俺はそう呟きながら、見かけより軽いその魔石を路肩の葉っぱで綺麗にしてからリュックへ放り込む。
次に牙も同じようにして仕舞い込んだ後、そこで俺は手を止める。
なぜならここに来て重大な問題に気がついたからである。
それは。
「……生肉ってどうやって持って行けば良いんだ……」
ビニール袋があるわけでもなく、かといって葉っぱで包むにも周りにあるのは小さな葉ばかりで。
せめて調理出来れば良かったが火を起す道具も無い。
「まさかこんな所で魔法灯が火を使わない灯りってことが徒になるなんて!?」
俺は泣く泣く生肉をオークの死体に戻すしかなかったのだった。




