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最悪不意を突いてこの短剣を足にでも突き刺せば逃げ切れるかも知れない。
(それか短剣を投げて、それにオークが気取られている内に逃げたほうがいいか)
しかしそうすると手元から唯一の武器が無くなってしまう。
オークがその手に引っかかってくれれば良いが、失敗すれば丸腰の俺だけが残されることになる。
(……そうだ!)
ミストルティンだ。
あの小枝に短剣をアドソープションさせれば、短剣を投げても代わりにミストルティンを変化させれば問題ない。
『グオ。グフォ』
知能はそれほど高くないのだろう。
オークは未だに道の真ん中で辺りを見回しているだけで動かない。
(よし。アドソープション!)
俺は短剣にミストルティンを当てながらアドソープションを発動させた。
途端に脳内に例の声が聞こえる。
『アイテム:短剣 アドソープション完了――EXPを8獲得――レベルが上がりました。新しく『経験取得』が追加されました。得られた知識と経験をマスターに転送いたします』
(やった! 棚ぼただけどレベルアップして何か新しい能力も手に入れたみたいだ)
しかし『経験取得』って何だろう。
そう思った俺の脳内にその答えが流れ込んできた。
「はははっ……こりゃ凄い。これならオーク相手でも勝てるぞ」
俺の中に流れ込んできたのは吸収した短剣と、それを操り戦った人の戦いの経験である。
使い古されボロボロになった短剣には、そうなるまで散々使われてきた理由がある。
まっさらな新品の短剣と違って、それだけの経験を短剣自身が積んできているのだ。
王都守備隊で使われて、古くなってから訓練用として下げ渡され、数多くの人の手によって使われた経験が。
「さて、それじゃあいっちょやってみますか」
俺は左手にミストルティン、右手に短剣を握りしめながら身を潜めていた草むらを飛び出した。
そして背中を向けているオークに向かって一気に駆け寄ると柔らかそうな脇腹に短剣を突き刺す。
「おらぁっ!」
今まで剣なんて使ったことも無いのに、体が動かし方を覚えているかのように勝手に動いた。
いや、実際に今の俺はミストルティンによって覚えたのだ。
『グガアアアアアアアアアアアアアアア』
突然襲った激痛にオークが森中に響き渡りそうな叫び声を上げながら腕を振り回してくる。
しかし俺はその動きを経験で予想していた。




