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相手が野生の獣であったなら、いくら隠れても臭いかなにかで俺の場所は直ぐにバレてしまうだろう。
しかし今更立ち上がって逃げてももう遅い。
それ以前に足が震えて真面に走れそうに無い。
(ど、ど、どどうする。ここが日本じゃ無く異世界だとすると魔物ってヤツかも知れない)
今の俺には武器は無い。
唯一すがれそうなミストルティンには魔法灯しか覚えさせていない以上武器にはならないだろう。
せめて剣か何か一つでもアドソープションしておけば良かったと思うが後の祭りだ。
「そういえばリュックに何か入ってるかも」
近づいてくる息遣いに焦りながらも、俺は転送直前に背負わされたリュックを抱きかかえる様に前に回すと蓋を開ける。
中に入っていたのはこぶし大の麻袋一つと手紙らしきもの、そして一本の古びた短剣。
(助かった、武器だ)
俺は恐る恐る短剣を取り出してみる。
剣の使い方なんてもちろん習ったことは無い。
だからそれがあっても勝てるとは限らない。
だけど無いよりはマシだ。
(って……なんだよこれ……あの爺さんふざけんなよ!)
取り出した短剣を見て俺は一瞬前までの希望が崩れ、頭にはこんなものを入れたストルトスへの怒りが浮ぶ。
なぜならその短剣は古びたなんてものではなく、錆が浮いている上に所々刃も欠けた酷い代物だったからであった。
『ガアアアアッ』
ドンッ。
しかし俺に選択肢は無い。
酷い短剣に絶望と怒りを覚えたその時、一角ウサギを追ってきたであろうバケモノが遂に姿を現したのである。
(ば……バケモノだ)
身の丈は二メートルくらいあるだろうか。
短い足に球体に近い胴回り、その上に乗っているのは牙の生えた鬼の様な顔。
体の割に小さなその頭には、バランスがおかしいほどの豚鼻と豆粒の様な目が付いている。
(もしかしてオークとかいうやつか?)
そのバケモノは道に出ると、ドスドスと音を立てて歩き回りながら何かを――たぶんあの一角ウサギを探し始めた。
当のウサギはとっくにどこかへ逃げ去っている。
だけどこのままでは代わりに俺がバケモノの餌になってしまう。
(こうなったら一か八か、この短剣で……)
俺は短剣を握りしめる。




