11
「ここ……どこだよ」
翌日、勇者召喚されたあの部屋に連れてこられた俺は、中央に描かれた魔方陣の上に立たされた。
そしてストルトスに何やらリュックの様なものを背負わされると、予想もしてなかった言葉を告げられたのである。
『貴方様を元の世界に送り返す方法が判明しました。今からその儀式を行います』
胡散臭いものを感じつつも、これで元の世界に帰れるのならと一瞬でも思ってしまったのが間違いだった。
俺はあの瞬間直ぐにでも魔方陣を飛び出して逃げるべきだったのだ。
『やれ』
ストルトスの号令と共に彼の部下達が一斉に何やら呪文を唱え始めた。
と同時に一瞬足下の魔方陣が光ったかと思うと――
「えっ」
突然目の前の景色が狭く薄暗い室内から見知らぬ森の中の小道へ変ったのだった。
「もしかして本当に元の世界に戻ったのか? でもどこの森だろう。青木ヶ原樹海とか?」
だったら例え元の世界に戻ったとしても生きて出られるだろうか。
でも道もあるし、このまま進めば問題ないとは思うんだけど。
ガサガサッ。
森の奥へ続いてる小道を見ながらそんなことを考えていると、不意に脇の草むらが音を立てた。
そして何かが飛び出してきたのだ。
「ひいっ」
日本の森は比較的安全な動物しかいないとは言っても猪や熊に襲われたら死ぬ可能性はある。
俺は思わず逃げだそうとしたが、飛び出してきた獣を見て足を止めざるを得なかった。
「角の生えた兎なんて日本にいたっけ?」
なぜなら草むらから飛び出してきたのは日本どころか世界中にもいるはずのない一角ウサギだったからだ。
「ここって青木ヶ原樹海じゃ……無い?」
混乱したまま一角ウサギを見つめていると、ウサギは跳びだしてきた勢いのまま道を横断し、反対側へ一目散に逃げて行く。
俺がいたから驚いて逃げた?
と思ったが、どうやらそれが全く違う理由だと言うことが直ぐに判明する。
バキバキッ。
ウサギが跳びだしてきた方向の森の中から、激しい音が聞こえてきた。
俺はとっさにウサギが逃げ込んだ草むらに同じように飛び込むと身を伏せる。
本能的な何かが訴えかけてくる。
あの音の主はヤバイと。
ガサガサガサッ。
『ブオゥ――ブオゥゥゥ』
俺の耳に何者かの激しい息づかいが聞こえてきた。
そしてそれはどんどんこちらに近づいてくる。
(ヤバイ。隠れるんじゃなく逃げるべきだったか)




