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「危ない危ない。しかし頭では理解してたけど実際に見るとびっくりだな」
俺は先ほど学習したミストルティンの能力を反芻する。
ミストルティンの能力であるアドソープションは【吸収】という意味らしい。
吸収したいものにミストルティンを触れさせた状態で発動させることで、その力を手に入れることが出来る。
「そして一度吸収すれば俺の命令で吸収したものに変化すると」
しかも性能も完全にコピーされていて、腕の中の魔法灯も壁のものと同じようにまばゆい光を放っている。
さすがに眩しいのでさっきやったように腕の中の魔法灯へ片手の掌を向け指を一本折り曲げた。
「わかってたけどちゃんと消えるんだな。これがさっきまで小さな木の枝だったなんてね」
両手で光の消えた魔法灯を目の前に持ち上げてステータスを確認する。
『
形 態:魔法灯
モード:消灯
《機能》
光魔法により周囲を照らすことが出来る
』
通常状態の時と違い、変化している魔法灯の機能が表示されていた。
どうやら魔法灯はやはり火魔法ではなく光魔法を使った魔道具だったようだ。
「俺自身には何の能力も無くてどうしようかと思ったけど、こいつさえあればなんとかなりそうだ」
俺はミストルティンを元の小枝に戻すとベッドに座り込んで考える。
今の俺は処分保留状態だ。
だけど謁見の間で俺が無能だとわかってからのこの城の人々の態度。
その変り様からしてこの先の扱いも碌なものにならないだろう。
「かといって今さら小枝がチートアイテムでしたなんて言うのも癪だ」
俺が無能だとわかった途端に手のひらをくるりと返した彼ら。
そんな奴らのために先頭に立って魔王軍と戦うなんてまっぴらごめんだ。
「だけどこのままだと良くてここを追い出されるだろうし、悪くすれば殺されるかも」
勇者召喚の儀式に失敗したということがどれほど大事なのかはわからない。
しかしそれなりの準備と犠牲は必要だったことは想像出来る。
「今のうちに逃げた方がいいか?」
だが部屋の前には無駄に二人の兵士が護衛と称した監視をしているはずだ。
無能の俺と魔法灯にしか変化出来ないミストルティンでは相手にもならない。
「それでも俺が生き残こるためには小枝に頼るしかない」
幸い俺の手の中にはチートアイテムがある。
上手く能力を吸収させれば王城を着の身着のまま追い出されても生きていけるだろう。
「よし。決めた」
俺は足で反動を付け勢いよく立ち上がる。
そして部屋のなかを彷徨きながらミストルティンに吸収出来そうなものを探すことにした。
「……」
半時間ほど部屋中を探索した結果わかったことがある。
――それは。
「この部屋、泊まるのに必要な最低限のものしか無いっ!」
結局俺は魔法灯一個だけを頼りに、翌日呼び出されるままに王城の一室へ向かうことになったのだった。




