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ラーメン屋のカップル

作者: 相沢メタル
掲載日:2020/04/15

 ずるずると音を立てて、彼女がラーメンをすする。


 ここは駅近くのラーメン屋。

 放課後の夕暮れ時で、店内は大学生らしき若者や、サラリーマンでごった返している。

 ラーメンのおいしそうな香りがただよい、席で待つ人々はうずうずと空腹をがまんしている。


 僕と彼女は、カウンター席で隣同士に座っていた。

 だから、横を見れば彼女がラーメンを食べている様子が見える。


 ずるずる……ちゅるんっ。

 スープは醤油味。

 焦げ茶色のしずくが、彼女の口元からぴぴっとはねた、気がする。


 汚い……とはもちろん思わない。

 かといって「しずくのついた店内がうらやましい」とも思わない。


(ずいぶん、おいしそうに食べるなあ……)


 考えていたのはそれだけ。

 嘘だ。


(ひどい人だなあ……)


 こちらが本音。

 なぜかって?

 僕の目の前には、ラーメンメニューのオマケについてきたチャーハンだけが置かれている。

 彼女がゆずってくれたものだ。

 なんて優しい彼女だって?

 逆だ。

 ゲームに負けたバツとして、ラーメンのおあずけを食らっているのだ。

 しかも、ラーメンは僕のおごりだ。


 ずるずると音を立てて、彼女がラーメンをすする。

 本当においしそうに食べる。

 この店のラーメンはおいしいのだけど、今日はとびきりおいしそうに見える。


 チャーハンをちびちびと食べる。

 このチャーハンも香ばしくて、それにチャーシューのかたまりも入っていて、おいしい。

 思わずいっきに食べてしまいそうになるのをおさえつけて、ゆっくりと食べる。

 コショウのバランスと、炒り卵の量、それからほんの少しのいんげん。

 まったくもって、素晴らしい。

 おっと、食べ過ぎるところだった。


 ずるずると音を立てて、彼女がラーメンをすする。

 店内に置かれたテレビから、ニュース番組の音がする。

 ちょうど、東京のラーメン屋を特集していた。

 ラーメンを作っている店長の顔を見ると、じっとテレビを見ていた。

 同業者として、やっぱり気になるものなのか。

 ちょっとした気付きを得て、得した気分になる。


 気がつけば、彼女はどんぶりを持ち上げラーメンのスープを飲み始めていた。

 音はせず、のどが小刻みに上下する。

 ゆるやかな反復運動が続き、やがて停止した。

 彼女はゆっくりとどんぶりをカウンターに置き、ティッシュで口元をふいた。


「ごちそうさま」


 ラーメンで温まった顔で、彼女は満足そうな笑顔を見せる。

 そのまま立ち上がったので、僕はあわててチャーハンを食べ終えた。


 店の外に出ると、少しだけ肌寒かった。

 彼女は、ワイシャツの首元のボタンを外して、ぱたぱたと手であおいでいた。

 こっちはチャーハン、あちらはラーメン。

 その事実を忘れさせない4月の肌寒さが、にくらしい。


 彼女はうーん、と伸びをしたあと僕の方を振り返って、


「ごちそうさま」


 と、ひとこと告げた。

 その表情がこどもっぽくて、愛らしいものだから、僕はチャーハンのことを忘れた。


(ずるいよなあ……)


 ちなみに、彼女は彼女であって、付き合っているわけではない。

 女性だから、彼女と呼んでいるだけ。

 別に好きなわけでもない。

 なんとなく、一緒にいると楽しいっていうか?

 ええい、なんだよ、ニヤニヤこっちを見るなよ。

 いいの、とりあえずはこの距離感で。


 さて、明日は彼女とどんなゲームをしようかな。

 きっと、また僕が負けてしまうんだろうけど。

 それもいいかな。

コロナが悲しいので日常的な話を書いてみました。

少しだけ、自分の気持ちが癒やされました。

読んだ人の気持ちも癒やされるといいなあ、と思うのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラーメンが美味しそうで、描写のクオリティの高さを感じました。 つい食べたくなってしまいますね。
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