喋るだけ喋ったんで、フラグ立てまくって帰るっす。
やー、オレってば、久しぶりに喋りたいだけ喋くりましたよ。
もしかして、すげー早口になってませんでした?
実のところオレね、知識ひけらかしちゃう時に限って、なぜか早口になるんですよねー。
だから、ちょと心配だなぁ。……部屋の隅の人たち、ちゃんと全部書き留められましたかね?
あれ? 先輩、驚いちゃったりして、どうしたんですか?
最初に勝クンの隠れてた柱とは別の柱の陰やら、その辺のカッコイー家具の裏やらに、速記の匠がコソっと隠れて、何かゴニョゴニョ書いてるの、オレ、最初から気付いてましたけど……。もしかして完璧に隠してたつもりだった?
あー、オレ、気付いてるってコトを黙ってた方が良かったかなぁ。ても気付いちゃったんですもんね。チョロッと喋りたくなっちゃったんですよ。
そりゃ気付きますよ。
だって、ああいう所には兵を伏せとくモンでしょ? フフッ。
それくらいお察し案件じゃないですか。気付かないと思ってたなんて、見くびっちゃイヤン。
いつ頃からって……ええ、パーリィ会場に入ったときにはとっくに。
っていうか、ご招待のお知らせを持ってきてくれた使者さんの口上を伺っちゃったアタリから、うっすらと感づいちゃってましたよ。
オレに色々喋らせてるのは、確かに勝クンへの講義が主目的。
でも、若くて優秀な勝クンへの講義を文字に起こしたちゃったものだったら、そこそこ優秀な大人の人が使う教科書にも使えると踏んでるんだろうな、って。
正解でしょ? やっぱりオレと先輩は思考の方向性が似てるんすよ。いや、うれしいなぁ。
それ、清書して、一部は勝クンが読み返す用の教科書として「使う用」にするんでしょ?
んで、書写とった一部が先輩の「保管用」でしょ?
それから、呉王の闔閭さまに献上する「布教用」にもう一部でしょ?
ほら図星。
うん、やっぱ本は最低三冊はキープしておくべきですよね。
あ、話がちょろっとずれちゃいましたね。
軌道修正、軌道修正。
先輩としては、一日も早くお父さんとお兄さんの敵討ちをしたいですよね。
まあ「実行犯」の楚の平王はもうお亡くなりになっちゃったワケですけど……。
今の楚王は、伍子胥先輩のお父さん方が処刑される切っ掛けになった「太子健の妃になる筈だったのを平王が取っちゃった秦のお姫様の伯嬴さん」が産んだ軫さんですもんね。この人が平王亡き後の先輩が仇敵だと思わないとイケない相手で、この血統の王朝をぶっ潰すのが、今の先輩ができる「敵討ち」ってことになるワケで。
だって死んじゃった平王の屍体をお墓から引きずり出して、鞭でひっぱたいちゃうワケにもいかないでしょう?
その軫さん……王位を継いで昭王と号してるんでしたっけ? 先輩の前でこんなこと言うのもナンなんですけど、あんまし悪い評判は聞かないんですよねー。国内も上手いこと回してるみたいだし。先代の呉王さまがチョイチョイちょっかい出したのも、どうにかこうにかいなしてたし。
……まあ、先代呉王がそういう「国内顧みない外征」に出かけちゃってくれちゃったから、その隙をついて闔閭さまが呉王の位をゲットできちゃったってのもありますけども……。
そんな感じだから、オレ、勝クンの帰国は大賛成ですけど、タイミングは今じゃないかもねー、って思っちゃったりもするんですね。もうちょっと手を打ってからのがいい。
だそのためにも、できるだけ呉の軍事力を上げたいってのが、先輩の本音……これも正解でしょ?
だから、闔閭さまのヤる気をアゲアゲに持ってきたいと、ね? そんな訳で、イイ煽りになる「教科書」が必要だ、と。
今はこの呉の国も王位継承がらみの内紛がまだ完全決着してませんし、その内紛の影響もあって国力低下中ですからねぇ。今の状況じゃぁ先輩が狙ってる「楚への進軍」なんて無理ゲーですもん。
……けども、国力が充分回復したら、闔閭さまを焚き付けて、楚を討ちに行っちゃう。そん時は、その教科書を参考にして先輩が軍の指揮を執って……。
へ? 何?
え? オレぇ?
オレに呉の軍隊を率いさせちゃうんってんですか?
先輩がオレを王様に推挙しちゃうと?
え、それガチで言ってます? 冗談でも御愛想でも無くて?
マジか……。うーん。
いや、闔閭さまって元々が軍閥出身で、自分も部隊を指揮して、国内の捕り物から周辺の防衛戦やらでたっぷり戦ってたから、実戦経験なんか豊富なお方ですよね?
だから、その教科書を読めば済むハナシじゃないですか。優秀な方ですもん、読めばオレの考えがすぐに判ってくれるでしょうし。だから教科書だけプレゼントしとけば充分なんじゃなくなくないですかぁ?
いやいや、そうはおっしゃいますけども……。
大体、この国にはもう伍子胥先輩がいるじゃないっすか。
そんでもうちょっと後……チョイチョイ呉を突っついてアチラの王室周りがちょっと揺らいだあたりで、タイミング計って勝クンに帰ってもらって、内間として働いてもらえば、もうそれで事足りちゃうと思うんですよ。
第一、一つの部署に頭が二人いる必要は無いですから。
ほら、オレも故郷から出てアチコチフラフラしてますけど……ええ、先輩のおかげで今はケッコウな所に住まわせてもらっちゃって、それは感謝なんですけど……そんなに「就職希望!」ってガツガツしちゃってもいないですから、ね。
もし、王様がオレを信頼して、当然先輩もオレのことを信用して、みんながオレの言うことにキッチリ従ってくれるってんなら、そりゃオレだってバリバリ働きますよ。
そうじゃないなら、速攻でサヨナラしちゃいますからね。たった今、出てっちゃうくらいに、パパッと迅速に動いちゃいますよ。
そういう条件をグビッと飲んでくれるっていうことなら、推挙してくださちゃってもイイですけど。
嗚呼、仕様が無い。
……お世話になってる先輩の頼みだ。一肌脱いじゃいましょう!
た・だ・し、ですよ。
いくら、先輩がオレのこと持ち上げてくれても、最終的に闔閭さまがウンって言ってくれなきゃダメでしょう? 雇うのは王様だもの。雇われる方には決定権はないっすから。
だからもし王様から採用通知が出なくても、それオレのせいじゃないですからね。あと王様のせいでもないですから。オレのことも、王様のことも憾んじゃダメですからね。お願いしますよ。
でも、もし先輩が七回ぐらい推薦しても王様から採用通知が出ないようだったら、オレ、マジで国外逃亡しますからね。だって、そこまでしても認めてもらえないっていうんじゃ、オレだっていたたまれませんよ。
その時は、先輩もオレのことはスパーッと諦めちゃってくださいよ。対楚戦はオレ抜きの別方向で戦略を練って下さい。
大体、あんまりしつこいと、先輩自身が嫌われちゃって、後々「大怨念」遺しちゃうことになりかねませんから。
じゃあ、オレはそろそろおいとまします。ご飯もお酒も最高でした。サンキューです。
あ、そうだ。さっきの教科書、清書ができたらオレにも一部廻して下さいよ。今日のパーリィの記念品として取っときたいんで。
――そんじゃ、再見。




