呉の人と越の人が同じ舟に乗ったっす。
んで、ちょい話変わりますけど。
戦争の上手い人ってのは「率然」みたいなもんだって言えちゃいませんか?
あ、「率然」の事、ご存じだったりしますでしょ?
北岳常山とか恒山とかっていう、仙人とか住んでるカモって噂のあるとこにいるって、これまた凄い噂になってるニョロニョロ蛇ちゃん。
アイツ凄いですよねー。
頭をひっぱたくと尻尾の方がビシッと攻めてくる。尻尾の方をガツンとやれば、今度は頭の方がシャーっと来る。じゃあってんで、真ん中をドスンとやれば、両方一度にグワーっと来るんだって言いますよ。
つまり、片翼が攻められたら、残り半分が速攻ヘルプに来る。どっちが攻められてもすぐに対処でできちゃう。場合によっちゃぁ、両端が協力して戦うって事ですね。うん、連携バッチリ。
ではここでまた問題です。ジャジャン。
軍隊を「率然」みたいに動かすことは可能でしょーか?
はい、答えは是。
夫れ呉人と越人と相悪むも、其の舟を同くして済り風に遇うに当りては、其の相救うや左右の手の如し。
……あ、オレまた良いこといっちゃった。
多分、後の世で「呉越同舟」なんて四文字熟語になっちゃいますね、コレ。
最初の方でもちらっとハナシしましたっけね。ここ呉の目下一番注意しないといけない相手の一つが越。これ、越にとっても直近で敵なのは呉って事ですよね。
つまり今現在、呉の国と越の国はすんげー仲が悪くって、実際の話、今日明日にでも戦争が始まってもおかしくないくらいの険悪ムード醸しちゃったりしてます。
偉い人達や軍関係者だけじゃなくて、それぞれの庶民の皆さん同士でも、呉越の人達はお互いにちょっとピリピリしてます。
そんなヤッバい状態の二つの国の人が、偶然同じ船に乗ったとしましょう。
普通にお船が進んでる間は、さすがに船上で喧嘩することは無いんじゃないかなーとは思いますよ。だって、狭いところでキッタハッタやりだしたら傍迷惑この上ないっしょ。それで二人揃って強制退船させられたんじゃ、当人たちだって困っちゃうもの。
険悪オーラ全開で船首と船尾ぐらいに離れて、それでもおとなしく座ってるでしょうね。
で、そんなときに、選りにも選って、これまたホントに思いがけずに、嵐が来ちゃったりしたら、どういうことが起きちゃうと思います?
雨がザンザカ、風がゴウゴウ、波がザップザップ、船体はギシギシ。
船員さんだけでなく、お客さんも含めて、乗ってるみんなが協力しないと、船はひっくり返って沈んじゃうって状況。巧いことやらないと、荷物も人も投げ出されて、財産命もも全部パァになっちゃう感じの大ピンチですよ。
そんな状況になったら、たとえ敵国人同士だろーが、親の敵だろーが、恋敵だろーが、虫の好かないアンニャロだろーが、取りあえずそんなことは棚の上に放り上げて置くでしょ?
船が体。乗員は手足。体を守るためなら手足が一致団結しないわけがない。
いざその場になったら、呉の人も越の人も、右手が左手を当たり前に助けるように、お互い助け合っちゃうんじゃ無いでしょーかね?
ギリギリに追い詰められたら、本人達の意思とか主義主張なんてものは、これっぽっちも関係なくなっちゃって、もうそう動くしかなくなるンですよ。
コレどういうことかといいますと……。
戦争の準備だっていって、お馬さんを並べて杭に繋ぎ止めて、戦車の車輪をがっちり埋めちゃって、もう絶対に動かない「完璧な防御の構え」を取ったとしましょうよ。
そんな物、兵隊さんたちからしたら、何の安心材料にもなりゃしませんよ、ってことなんです。
コレだけ準備したからもう安心、なんて兵隊さんたちに言ったって、それを真に受けて、
「ああ、安心だ。命や財産を失う心配をせずに戦える」
って思ってくれるはずが無いですよ。
安全です、守られてます、なんてヌルヌルに温い雰囲気の中じゃ、むしろ、みんな真面目に戦おうと思うわけなくなくないですか? 違います?
兵隊さんたちをビンビンにおっ勃てて、みんなの気持ちを全部一本にまとめて、殺る気満タンのチームにする――それには現場に即したやり方を徹底する必要があるでしょ?
そのためには、現場の将軍さんだけじゃ無くて、本国のほうの官吏さんや王様の政治力ってのが大事になってきますよ。
軍隊にはいろんな人がいます。それぞれに能力も体力も違いますよ。
だから、ガチガチマッチョ君もガリガリ細っちょ君も、それぞれ頑張れちゃう態勢を作る必要がありますよね。
それには、戦場の地の利ってヤツをこっちの有利に握ってないと駄目ダメなんですよ。情報を握ってれば、誰をどこで活躍させようかってのも、自然に決まってきますもん。
戦争の指揮を執るのが巧い人ってのは、大勢の人間の集団がまるで一人の人間になっちゃったんじゃないかって言うくらいビシッと動かせちゃうんです。
そのコツを一言で言うと、
「みんなそう動かざるを得ないようなっちゃうから」
ってことになりますかね。
つまり、戦争の巧い人は、兵隊さんを「脇目を振らずに一つの目標だけ目指す」ように持って行くのが巧い人、ってことですよ。
悪い言い方すると、
「人を追い詰めるのが巧い人」
って感じ?
まあ、そういった案配ですから。
現場の責任者である将軍さんは、周りからはものすごく落ち着いた物静かな感じに見えるように振る舞っちゃったほうがよさげですよ。
なんでかっていうと、腹ン中の本心を探られないようにするため、ですね。
それで、涼しい顔でいつでも正しい判断と処置をする。
そうすれば部隊をキッチリ統率できちゃういますでしょ?
いや、ぶっちゃけ、戦争の最中には兵隊さんたちに正確な情報を与える必要って、あんまり無いんですよ。むしろ詳しく知らせない方が良いぐらいで。
大体、将軍さんが何を考えてそういう指示を出しているのか、なんて理由までは、末端の兵隊さんが知ってる必要はなくなくないですかね。
いや、コレ、ホントのことですよ。
目標地点変更になっちゃった、とか、作戦変更しちゃうとか、そンな時でも、
「なんでそうなったか」
なんて理由は、かえって兵隊さんたちに覚られないようにしちゃった方が良いくらいです。
むしろ、宿営地をコロッコロ変えちゃったり、とぉーーんでもなく遠回りしてみたりして、目的地がどこなのか味方の兵隊さんたちにもワカンナイぐらいに隠し通しちゃいましょって事です。
んで、そうやってミステリートレインな行軍をして、いよいよ「いざ決戦」って時になったらどうしたら良いのかって言いますとと――。
そうですね。兵隊さんを高い所に昇らせちゃって、昇り切っちゃったら梯子外しちゃう、みたいな?
もう元の場所には降りらんない。前に進むしか無い。そういう状態にしちゃう。
もうちょっと具体的に言っちゃいましょうか。
はい、敵さんチームの領地の奥深くまで進軍しました。
それで、
「いざ最終決戦!」
ってことになりました。
そうなったら、乗ってきた船なんかは思い切り燃やしちゃいましょう。お釜とかお鍋とかもドッカンドッカン壊しちゃいましょう。
船が無ければみんな帰れなくなっちゃいますね。鍋釜がなければ、休んでご飯を食べようなんて余裕もかませなくなっちゃいますよ。
つまり、後戻りは出来ない、立ち止まることも出来ない、ってことになる。ってか、そういう状況に自分達で自分達を追い込んじゃう。
そうなったら、前に進むっきゃ無いでしょ、コレ。
そんで、勝てば良い。
勝てば、敵さんが持ってる船とか鍋釜とかを、まるっと頂戴できるわけですからね。
はい、問題なし。




